中東かわら版

№5 アフガニスタン:ターリバーンが国連のアフガニスタン人女性職員の勤務停止を通知

 2023年4月5日、国連は、アフガニスタン人女性職員が同国内において国連で勤務することを認めないとの通知を、ターリバーンから受けたと発表した。同声明で、国連は、アフガニスタン人女性職員がこれまでも移動の制約、嫌がらせ、脅迫、不当な拘束等を受けてきたとし、安全確保のため全アフガニスタン人職員の出勤見合わせを指示した。翌6日、国連安保理は非公開の会合を開き、オトゥンバエバ国連アフガニスタン支援ミッション事務総長特別代表が現状について報告した。11日にも国連は声明を出し、ターリバーン暫定政権による今次措置は国連憲章を含む国際法に照らして「違法」だと強く非難し、人道支援が滞ることへの懸念を示しつつ、今次措置によって生じる如何なる悪影響もターリバーン暫定政権の責任だと述べた。国連は、全アフガニスタン人職員の出勤停止を5月5日まで延長すると発表した。

 こうした動きを受けて、米国、EU、日本、イスラーム協力機構(OIC)等が今次措置への懸念を相次いで表明し、ターリバーン暫定政権に同措置の撤回を求める立場を表明した。

 

評価

 ターリバーンによる国連アフガニスタン人女性職員の勤務停止措置は、性別を基にした人権の著しい制限であり認められるものではない。アフガニスタン国内の国連に勤務するアフガニスタン人女性職員の数は約400名と伝えられており、彼女らが出勤停止となれば、食料・シェルター配布、難民支援、各種開発事業等、多方面への悪影響が予想される。国連は、ターリバーンによる措置を国際法違反と位置付け、アフガニスタン人職員の出勤見合わせといういわば対抗措置を発動した。援助が滞り、アフガニスタン人民が不満を募らせれば、統治主体であるターリバーンにも少なからぬ打撃となる。諸外国からの政府承認を求めるターリバーンにとっては、諸外国との軋轢も痛手となる。

 他方、現在、ターリバーンを実質的に支えているのは、中国、ロシア、イランやパキスタンやカタル等の近隣諸国が中心であり、国連や欧米諸国からの圧力だけでターリバーンの行動を変えられるかには疑問符がつく。政権奪取から1年半を経て、ターリバーンに「事実上の承認」を与える国は一定数存在する(詳細は「ターリバーン暫定政権の対外関係」『中東分析レポート』R22-14参照)。今後、これらの国々から如何なる対応がなされるかが鍵となる。

 また、ターリバーンによる自らの立場を示す声明が確認されていない点にも留意が要る。昨年12月にターリバーン経済省が国内・海外のNGOに対して女性職員を就労させないよう通達した際には、ヒジャーブ着用義務を始め諸規則への違反が見られたので停止(tavaqqof)するとの言い方がなされた。ターリバーン側に今次措置を決定した何らかの理由があるのだとすれば、国連側としては、相手の言い分に耳を傾け、客観的に状況を分析した上で、例えば男女の就労スペースを明確に区別する、女性職員のヒジャーブ着用を徹底する、等の妥協案を通じて、最悪の人道危機を回避すべく、事態の打開を図る必要がある。

 なお、今次措置の対象は、アフガニスタン国内の国連に務める「アフガニスタン人女性職員」に限られており、外国人女性職員は含まれていない模様である。問題解決に向けて、何故このような決定がされたのか、その理屈を把握し、具体的な対応を取る必要がある。また、現在、ターリバーン内部ではアーホンドザーダ最高指導者が強大な権限を有するとみられることから、「暖簾に腕押し」にならない形での効果的な働きかけの検討も必要となろう。

 

【参考】

「アフガニスタン:ターリバーンによる女性の教育・就労への制限を受けて諸外国・機関による働きかけが活発化」『中東かわら版』No.135

「アフガニスタン:ターリバーンが女性の教育・就労を大幅に制限」『中東トピックス』T22-09。※会員限定。

「アフガニスタン:ターリバーンがヒジャーブ着用を義務化」『中東かわら版』2022年No.15。

「アフガニスタン:アフガン暦新年を迎えるも、ターリバーンが女子教育再開を撤回」『中東かわら版』2021年No.129。

「アフガニスタン:女性の権利に関する「信徒たちの長」特別法令が発出」『中東トピックス』T21-09。※会員限定。

(研究主幹 青木 健太)

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