中東かわら版

№1 イラン・サウジアラビア:国交回復合意の発表後、初となる公式外相会談

 2023年4月6日、イランのアブドゥルラヒヤーン外相とサウジのファイサル・ビン・ファルハーン外相が北京で会談した。先月10日の国交回復合意の発表後、両者は22日と26日、及び4月2日に電話会談を実施したが、直接会談は初となる。会談後に出された両外相の共同声明の概要は以下の通り。

 

●イラン・サウジは「北京合意」(3月10日の国交回復合意を指す)のフォローアップとして、地域の安定化に向けた相互信頼の醸成と協力分野の拡大を進める。

●双方における、早期の大使館・領事館の再開に取り組む他、就航便や官民両部門における人の往来及び物流の再開、これに必要な査証の発給を進める。

●1998年の貿易・技術関連協定、及び2001年の治安関連協定といった、過去の両国間の関係強化にかかわる取り決めも復活させたい。

 

 以上につき、仲介役を務めた中国の秦剛外相は、中東地域における戦略的な独立性、内政不干渉の原則等を、中国政府として支持する旨を述べるとともに、イラン・サウジの歩み寄りを歓迎した。一方で米国は、国防省報道官発言として、地域の不安定化を解消する具体的なアクションにつながるなら歓迎すると、留保をつけた立場を表明した。

 

評価

 目下イランとサウジは、ラマダーン月が終わるまで(~4月21日)の直接会談、2カ月以内の大使館業務再開といった、3月10日以降に掲げてきた国交回復実現に向けたステップを順調に踏んでいると評価できる。この他、サルマーン・サウジ国王がライーシー・イラン大統領にリヤドへの招待状を発出したことが報じられる等、両国が国交回復を現実的なものとして見据えていることは疑いない。さらにこうした動きは、周辺国との関係にも影響を及ぼしている。4月4日には、イランが2016年のサウジとの断交以来、初となる駐UAE大使を任命した(UAEはイランとは断交しておらず、関係格下げにとどめていた)。イランは、今後バハレーンとの国交回復にも意欲を見せているようだ。

 もっとも、3月12日にサウジのファイサル・ビン・ファルハーン外相が、国交回復合意によってイランとの間にある諸問題が直ちに解決するわけではないと注意を促したように、両国、特にサウジはイランとの関係回復を進めるにあたって過度に楽観的な見方を示さない(この点は2021年1月のカタルとの国交回復合意のケースと対照的である)。実際のところ、この数年、対イラン関係改善における最大の障害であったイエメン戦争については、今次の北京での会談の後も具体的な言及がなく、サウジとしては今後、イランとの国交回復合意の成果として同戦争の平和的解決の道筋を示す必要に迫られる。

 一方のイランでは、サウジとの国交回復合意、及び今次の外相会談を好意的に捉える向きが強い。先述したサルマーン国王によるリヤドへの招待についても、ライーシー大統領は歓迎の意向を示している。もとよりライーシー政権は、トランプ前米政権の対イラン強硬政策の反動から、発足当初より近隣外交を重視する姿勢を示してきた。イラン体制内では、欧米による介入と裏切りが中東域内情勢を悪化させたとの認識が根強く、今次の国交回復合意にみられる地域主導型の緊張緩和は体制の意向に合致するものだ。実際、キャナアーニー外務報道官は4月6日、今次の外相会談をもって正式に国交が回復したのだ、と見切り発車ともとれる発言を行い、外交的成果をアピールした。同6日付『ジャーメ・ジャム』(イラン国営放送IRIB傘下)は、「アジアの大国、米国の覇権に対抗」との論説記事を出し、シャムハーニー国家最高安全保障評議会書記による最近のUAEとイラク訪問にも言及しつつ、域内で緊張緩和が進む現状を歓迎する立場を示した。

 過去10年程、イラン・サウジの対立が地域の敵味方関係の力学に及ぼしてきた影響を考えれば、両国の国交回復合意は二国間にとどまらない問題であり、周辺国にとっては素直に歓迎すべきものといえるだろう。現在進んでいるシリアとアラブ諸国との関係改善においても、イラン・サウジの国交回復が資するところは大きいと思われる。一方で、イエメン戦争でサウジと敵対するアンサールッラー(フーシー派)に対してイランがグリップを有するかは不透明であり、イエメン情勢の趨勢は依然として懸念事項と位置づけられる。

 

【参考】

「イラン・サウジアラビア:中国の仲介で外交関係が正常化」『中東かわら版』2022年度No.157。

「サウジアラビア:イランとの国交回復決定に至った背景及びその影響」『中東かわら版』2022年度No.158。

(研究主幹 青木 健太)
(研究主幹 高尾 賢一郎)

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