中東かわら版

№164 UAE:1年近い空位を経てアブダビ皇太子が任命

 2023年3月29日、ムハンマド大統領(アブダビ首長)は首長令を通して、長男にあたるハーリド・ビン・ムハンマド・ザーイド王子(41歳、アブダビ執行評議会議長)をアブダビ皇太子に任命した。また、弟のタフヌーン・ビン・ザーイド王子(54歳、国家安全保障顧問、アブダビ投資局長官)とハッザーア・ビン・ザーイド王子(57歳、国家安全保障顧問、アブダビ執行評議会委員)を、アブダビ副首長として任命した他、同じく弟のマンスール・ビン・ザーイド王子(52歳、副首相)を副大統領に任命した。副大統領職には、既にムハンマド・ビン・ラーシド・ドバイ首長が就いており、今後は2人体制となる。

 

評価

 2022年5月にハリーファ前大統領・アブダビ首長が薨去し、ムハンマド・アブダビ皇太子(現大統領)が継承した当時、事実上の次期UAE指導者が就くアブダビ皇太子のポストに関しては、ハーリド、タフヌーン、ハッザーアの3名の王子が取り沙汰されたものの、約1年、空位のままであった。ムハンマド大統領が現在62歳とまだ若く、早期の後継者指名の必要性がなかったこと、また将来の大統領・アブダビ首長への就任を見据えれば若い人材を登用することになり、そうするとまだ実務面等での経験が不足していること、といった理由が考えられた。

 今般、アブダビ皇太子を任命した背景は、前者というより後者に関するものだろう。すなわち、ムハンマド大統領の後継者が必要になったというよりも、まだ若い後継者に実績を積ませよう、との狙いだ。後継者予想の対抗馬であった2人の有力な王子が副首長として、首長というより皇太子を支える立場に任命されたのはその象徴と言える人事であろう。さらに皇太子へのサポートは、副大統領としてマンスール王子が任命されたことにも表れている。タフヌーン王子、ハッザーア王子、マンスール王子という3人の叔父のバックアップによって、今後、ハーリド王子の花道を築いていくための人事であろう。

 なおハーリド新アブダビ皇太子は、2022年9月の故安倍晋三国葬儀に、UAE代表として来日した。この点、日本の対UAE外交の観点からは、今般の人事は吉報と言えるだろう。

 

【参考】

「ハリーファ大統領・アブダビ首長の薨去、ムハンマド・アブダビ皇太子による継承」『中東かわら版』No.17。

(主任研究員 高尾 賢一郎)

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