中東かわら版

№2 イラン:ヒジャーブ着用取締り強化のため警察が監視カメラの使用を発表

 2023年4月8日、イラン警察はヒジャーブ着用取締りを強化するため、監視カメラを使用すると発表した。同日付『ミーザーン通信』(司法府系)に掲載された、イラン警察情報部門による声明は以下の通り。

 

  • 警察は、ヒジャーブの順法に当たり、イラン国民の間に緊張と争いが生じることの予防を目的として、公共の空間と通りにおいて賢明(スマート)なカメラと機材を用いて、ヒジャーブと貞節の法を犯した者を特定した上で文書と警告メッセージを送り、同犯罪を繰り返し犯した場合の法的手続きを通知することとする。

 

 先立つ3月30日、内務省(警察の主管省庁)は別の声明において、ヒジャーブ着用を含むアッラーが下された戒律と価値を守るとの基本原則から政府は一歩も後退しておらず、また今後も後退することはないと強調していた。同声明は、ヒジャーブ着用を徹底するためには、若い世代を「説得」することが最も効果的だとの立場を体制支持者に向けて示していた。

 こうしたイラン体制(ハーメネイー最高指導者及び革命防衛隊に代表される治安機構と宗教界を含めた中央権力)のヒジャーブ着用取締り方針と軌を一にするかのように、3月30日前後には、ヒジャーブを着用しないでイラン国内の商店で買い物をする女性2名が、バシージ(革命防衛隊の国民動員組織)構成員から頭髪にヨーグルトをかけられる様子がSNS上にアップされ物議をかもした。この女性2名はヒジャーブ未着用の罪で拘束されたと伝えられた。

 

評価

 これをもってヒジャーブ着用取締りが実際に強化されるかは不明ではあるものの、今次発表は、イラン体制側からこの問題に関して強硬な姿勢で臨む方針が改めて示された点で重要である。2022年9月に始まったヒジャーブ強制着用に対する抗議活動は、これまで500人以上が死亡、2万人近くが拘束されるなど、反体制運動の性格を帯びながら大規模に展開された。他方、最近では、街頭での抗議デモは見られなくなり、国際的な機運も低下していた。こうした中、一般的に宗教心が高まるといわれるラマダーン月に、イラン体制は改めてヒジャーブ着用取締りを徹底する態度を明確にした。この背景には、主に宗教界や治安部隊から成る保守強硬派から、警察の対応が手ぬるいとの批判が燻っていたことが挙げられる。抗議デモが一応の収束状況を見せる今が、取締り強化開始の適切なタイミングと判断された可能性もある。

 一方で、具体的にどのように監視カメラを用いつつ、個人に警告メッセージを送信するのかは不明である。報道によれば、すでに街中に設置されている交通違反を取り締まるためのCCTVカメラのデータを援用するのではといった憶測も伝えられている。現在、科学技術の急速な進展により、顔認証機能付カメラも比較的安価に導入することができる。中国では、新疆ウイグル自治区においてCCTVカメラを用いたウイグル族の監視が行われているとの報告もあり、こうした技術を何らかの形でイラン体制が取り入れる可能性はあるだろう。

 こうした動きに対して、イラン国内の、私的空間に宗教が干渉することを嫌う世俗化した若者が反発を強めることが予想される。テヘラン北部の瀟洒なショッピング・モールなどでは事実上ヒジャーブを被らない状況が黙認されているが、警察が例外なく取り締まるのであれば、こうした若者との衝突は避けがたい。どこまでが許容範囲で、どこからが違法に分類されるのか、しばらくお互いの様子見が続くと考えられ、今後抗議デモの再燃への警戒が必要である。

 

【参考】

「イラン:ヒジャーブを巡る抗議活動の現状」『中東かわら版』No.146。

「イラン:抗議デモの継続と「指導巡視隊」の活動休止をめぐる動き」『中東かわら版』No.125。

「イラン:長期化する抗議デモ」『中東かわら版』No.109。

「イラン:ハーメネイー最高指導者が抗議デモについて初めて言及」『中東かわら版』No.95。

「イラン:ヒジャーブ着用取締りによる女性の死亡をめぐり各地で抗議デモが発生#2」『中東かわら版』No.90。

「イラン:ヒジャーブ着用取締りによる女性の死亡をめぐり各地で抗議デモが発生」『中東かわら版』No.88。

(研究主幹 青木 健太)

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