中東かわら版

№71 UAE:「一つの中国」原則への支持表明と米国へのけん制

 2022年8月4日、UAE外務・国際協力省は声明で、関連する国連決議に基づきつつ、「中国の主権と領土的統一」及び「一つの中国」原則をUAEが支持すると発表した。あわせて、米国のペロシ下院議長による台湾訪問を「挑発的な行為」と評した。

 台湾を焦点に「一つの中国」原則をめぐる米中間の緊張が高まる中、中国はUAEはじめ、GCC諸国から改めて支持を獲得することに積極的な姿勢を見せている。3日にはバハレーンのザイヤーニー外相がマナーマで、7日にはクウェイトのザフィーリー副外相がクウェイトでそれぞれ中国大使と会談し、8日にはサウジの駐中国大使が中国のDeng Li副外相と北京で会談した。いずれの会談でも、石油輸出を軸とした強固な外交関係をアピールしつつ、バハレーン・クウェイト・サウジの基本的立場が「国家の主権の尊重」に基づいた「一つの中国」原則への支持であることが確認された。

 

評価

 GCC諸国が、少なくとも建前上「一つの中国」原則への支持を表明するのは、新しいことでも珍しいことでもない。歴史的には最初、台湾と国交を結んでいた中東諸国だが、1950年代にイエメン、エジプト、イラク、シリア等が中国との外交を開始し、さらに1971年のアルバニア決議を経てトルコ、ヨルダン、リビア、オマーンが続いた。他のGCC諸国も、1980年代に中国がエネルギー輸入国に転じたことや、湾岸戦争で中国がクウェイトを支持したことで中国と国交を結んだ。それでもサウジ、UAE、トルコ等は台湾との民間外交を維持し、近年では観光・経済分野でのパートナーシップ強化も進めてきた。中国との経済関係は強化の傾向にあるが、今回の「一つの中国」原則支持の表明を機にこうした台湾との関係が大きく変わる可能性は低いだろう。

 一方で興味深いのは、UAEの声明に見られたような、米国へのけん制ととれる態度である。GCCとしては、特に「アラブの春」以降の課題である対米依存のリスクヘッジを折に触れて試す必要がある。米国はというと、11月の中間選挙に向けてバイデン政権(及び政界引退も噂されるペロシ下院議長)がアピール材料を求めており、それは秋の党大会で異例となるトップ第3期目への突入を見据える習近平国家主席も同様である。従来、国家主席の任期は2期10年と定められてきたが、習近平国家主席でこの慣例が撤廃されれば、諸外国にとって習政権はバイデン政権よりも息の長いパートナーとなりうる。GCCにとって、米国が安全保障上の最重要パートナーで、中国は経済パートナーという構図自体は今後も続くだろう。しかし、以上のような各国の思惑が交錯するタイミングで示された中国への寄り添いからは、対中関係を一種の観測気球として米国の意図を探ろうとのGCC諸国の意図もうかがえる。

(研究員 高尾 賢一郎)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP