№68 トルコ:エルドアン大統領がロシアでプーチン大統領と会談
2022年8月5日、エルドアン大統領はロシア南部のソチを訪問し、プーチン大統領と会談した。首脳会談は約4時間に及び、ウクライナ港からの穀物輸出、エネルギー、経済分野における二国間協力の推進、国際情勢(シリア、リビア問題)等、幅広い分野で協議した。
会談後に行われた共同記者会見の概要は以下の通り。
【食料安全回廊】
- トルコ・ロシアの建設的な関係が7月22日の国連、ロシア、ウクライナ、トルコ間のウクライナ産穀物輸出再開に向けた合意に繋がったことを確認
- ロシア産穀物及び肥料輸出の重要性を強調
【シリア】
- 永続的な解決に至るシリアの政治プロセスの重要性に言及し、同国における「テロとの戦い」にトルコ・ロシアが連帯して行動することを表明
【リビア】
- リビアの主権、領土保全、国家統一に対する両国の強いコミットメントを強調。リビア国民が自由で公正かつ信頼できる選挙を実施することの重要性及び、国連の支援のもと、リビアが主導する政治プロセスへの支持をあらためて表明。
【トルコ・ロシア関係】
- 「相互尊重を基本」として二国間関係を前進させる用意がある。特に、二国間貿易量の増加、(アックユ原子力発電所、天然ガスを含む)エネルギー、経済分野での協力強化に向けた具体的な措置を講じることで合意
- トルコ・ロシア間のハイレベル協力会議の次回会合をトルコで開催することで合意
ロシアからの帰途、エルドアン大統領は記者団に対し、ロシア・ウクライナ戦争に勝者はおらず、両国の首脳会談をトルコが主催できることをプーチン大統領に念押しした、と明らかにした。そのうえで、現在の危機は交渉によって解決されるべきとの考えを改めて強調した。
シリア情勢については、ロシア側がトルコに対して公正なアプローチを維持している、特に「テロとの戦い」でシリアの領土保全を図るため、両国が必要な措置を講じることに同意した、と語った。また、二国間の貿易額を1000億ドルにまで引き上げるため、ルーブルでの決済措置を含めた経済・商業関係に関する覚書を締結したと述べた。
評価
今般の直接会談は、トルコとロシア両国が出来得る限り早期の緩和を目指す問題を抱えた中で行われた。とりわけ二国間の経済・商業関係強化に関してエルドアン大統領は、決済通貨をドルではなく、部分的にルーブルとリラで行われるべきとの考えを示した。また、現在トルコの5銀行がロシア独自のクレジット・カードシステム「ミール(Mir)」との協力体制構築を進めていることも明らかにした。同決済システムが実現すれば、トルコ滞在中のロシア人に利便性がもたらされる他、トルコを訪問するロシア人観光客の増加も見込まれる。
さらに、今回締結された覚書において、ロシア産天然ガスの一部をトルコがルーブル建てで購入できることも発表された。詳細は明らかになっていないものの、この合意により、トルコ国内の天然ガスをはじめとした燃料価格の低下に繫がれば、選挙を間近に控えたエルドアン政権にとって追い風となる。
また、共同声明でロシア産穀物及び肥料輸出に言及がなされたことも重要な点である。ロシアはかねてより、ウクライナ産のみならず自国の穀物輸出再開も強く要求しているが、制裁の問題もあり実現していない。仮に、ロシア産の穀物・肥料輸出が可能となれば、肥料価格高騰のあおりを受けるトルコの農業にとり明るい材料となる。
制裁で苦境にあるロシアにとり、ルーブル建て決済取引の実現は、自国通貨の下落抑制への効果が期待できる他、欧米による制裁の「抜け道」となり得る。
今般の両首脳の合意により、トルコとロシアが欧米の金融システム外で交易ルートを確立できれば、制裁の対象となることなくプーチン大統領を経済的苦境から救済できる。他方で、今次合意が、選挙まで10カ月を切ったエルドアン大統領の支持率を押し上げるカギとなる可能性もある。
エルドアン政権の存続は両首脳がこれまで構築してきた様々なプロセスの継続に繋がるため、ロシアにとっても有益となるだろう。だが、こうしたトルコの行動はロシア包囲網を強化する欧米諸国からの反発を招く可能性もあり、トルコへの風当たりが強まることも懸念される。
【参考情報】
*関連情報として、下記レポートもご参照ください。
<中東かわら版>
・「トルコ:黒海からの穀物輸出でロシア・ウクライナが「歴史的」合意」No.56
(2022年7月25日)
・「トルコ:ロシア・ウクライナ合意による穀物輸出実施に向けた「共同監視機構」が発足」No.59(2022年7月29日)
<中東トピックス>【会員限定】
・「トルコ:チャウシュオール外相とロシアのラヴロフ外相との二カ国協議実施」T22-01
(研究員 金子 真夕)
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