中東かわら版

№69 イラン:EUが核合意再建に向けて「最終文書」を提示

 2022年8月8日、EUは、イラン核合意再建に向け、「最終文書」を交渉当事者に提示した。今次協議は8月4日からウィーンで開始されたものであり、今回の展開を受けて、各国代表団は一度首都に戻り政治的決断を仰ぐことになる。EUのボレル外務・安全保障政策上級代表は、「交渉され得るものは全て交渉されており、これが最終文書だ」と述べた上で、イラン・米国双方に政治的決断を求めた。同代表によれば、両国の回答がポジティブであれば、署名可能である。同日、米国務省報道官も、「EUの提案に基づき早期に合意する用意がある」と前向きな姿勢を示した。ロシアのウルヤノフ交渉官も、もしイラン・米国が受け入れれば、核合意は再建されるとツイートした

 他方、イラン側は、EUが提案した文書は最終版ではないと、上記と異なる立場を示している。8日付『IRNA通信』によると、匿名のイラン外交官は、依然として複数の問題に関する協議が続いており、文書の最終化について話し合える段階にはないとの見解を示した。イラン外務省HPにも、イラン側はEU提案に対して予備的な見解を示した、争点がある限り包括的に検討される必要がある、今後EU・米国側に最終回答をすると記された

 

評価

 イラン核交渉は大詰めを迎えているが、イラン・米国間にある認識の相違に鑑みるに、EU提案の文書を「最終文書」と言い切れるかには疑問符が付く。各国から示された立場を一瞥すると、米国はEU提案を「最終文書」と捉えているものの、イラン側は複数の争点を不服とし事実上留保を付している。今後、バーゲリー外務事務次官がテヘランに持ち帰り、ハーメネイー最高指導者の判断を仰ぐことになる。この意味では、「ボールはイラン側にある」状況が生まれており、イランが大局的観点から核合意遵守に向けて舵を切れるかが最大の焦点である。

 EUが提示した「最終文書」は公開されていないものの、イランがかねてよりイラン国民の権利と主張していた完全な経済制裁の解除は要求に含まれていると見られる。また、合意の持続可能性を米国が確約することも要求に含まれている可能性がある。この他、革命防衛隊の外国テロ組織指定からの解除、及び、国際原子力機関(IAEA)の保障措置協定に関する論点も、依然として燻る争点に含まれるかもしれない。

 国際情勢に目を転じると、イランによるロシアに対するドローン供与疑惑、イスラエルによるガザ地区への攻撃(注:エジプト仲介で一時停戦が発効)等、イランの形勢を変え得る事案が多く進行中である。仮に核合意が事実上崩壊すれば、イラン・ロシア間の軍事協力が進展したり、イラン・イスラエル間の軍事的緊張が高まったりといった形で域内外への波及も予想されることから警戒を要する。一方で仮に核合意再建が実現すれば、対イラン制裁の解除を通じて、日系企業のビジネス活動にも多大な影響を及ぼす可能性がある。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「イラン:EU仲介による、核交渉再開に向けた動き」2022年度No.61(2022年8月2日)

・「イラン:核合意再建に向けたウィーン協議が再開」2022年度No.66(2022年8月5日)

(研究員 青木 健太)

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