中東かわら版

№40 サウジアラビア:ムハンマド皇太子のエジプト・ヨルダン・トルコ歴訪

 2022年6月20~22日、ムハンマド皇太子はエジプト・ヨルダン・トルコを歴訪し、それぞれシーシー大統領、アブドッラー2世国王、エルドアン大統領らと会談した他、各国との間で投資を中心とした経済分野での関係強化が図られた。

 エジプトでは、両国企業間でインフラ、物流、港湾管理、農業生産品、医療産業、化石燃料、再生エネルギー、サイバーセキュリティー等の分野にかかわる14の投資合意(総額77億ドル相当)が交わされた他、2021年に二国間の貿易総額が過去最高(約540億サウジ・リヤル)に達したことを受けて、今後のさらなる貿易促進について確認がなされた。続くヨルダンでも採鉱、建設、原子力、貿易等の分野での協力合意が交わされ、サウジで建設中の産業都市NEOMでの事業提携をはじめとした、二国間の投資分野を中心とした関係強化につき協議された。最後に訪れたトルコでは、今後の貿易・投資促進や国防分野での協力を含めた二国間関係の前進について協議され、その一環として観光産業促進のための双方の人の往来についても進めることが確認された。

 

評価

 今次歴訪については、いずれの報道でも、来月7月半ばに予定されているバイデン米大統領のサウジ含む中東歴訪に先立って行われたことが強調されている。この上で、2018年10月のジャマール・カショギ氏殺害事件を受けて、バイデン大統領(同職就任前)が「(事件の首謀者と考えられるムハンマド皇太子を)つまはじきにする」と発言した経緯から、このタイミングでムハンマド皇太子の動向が注目を集めるのは当然であろう。

 しかしながら、ムハンマド皇太子の歴訪先を見ると、これは単に彼とバイデン大統領の「手打ち」ではないと考えられる。タイミングを考えれば、むしろ重要なのは6月20日にイスラエルのガンツ国防相が発表した「中東防空同盟」構想であろう。この詳細は不明ながら、イスラエル側にはバイデン大統領の中東歴訪をこの延長と考えている向きが見られる。ムハンマド皇太子の歴訪先であるエジプト・ヨルダン・トルコがイスラエルと長く外交関係を有してきた国であることを考慮すれば、個別訪問に見られた経済関係強化のための取り組みは、重要性としては二次的である可能性もある。

 バイデン大統領のサウジ訪問をめぐっては、これまで彼とムハンマド皇太子との関係における体面の問題として過度に報じられてきた。そうした中、イスラエルによる「同盟」構想やムハンマド皇太子の中東歴訪は、バイデン大統領の中東歴訪をより大きな(当事国からすれば、意義のある)問題と捉えることを可能にしている点で、彼とムハンマド皇太子の会談に向けた「外堀」を埋めている。

(研究員 高尾 賢一郎)

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