中東かわら版

№39 アフガニスタン:南東部でマグニチュード5.9の地震の発生と国内外の反応

 2022年6月22日朝、アフガニスタン南東部でマグニチュード5.9の地震(注:当初の6.1から修正された)が発生した。米国地質調査所によると、震源地は南東部ホースト州都から約46キロメートル離れた、パキスタン国境に近い地点である(下図)。ターリバーンの情報文化省は、現時点までに、地震による死者は1000名以上、負傷者は1500名以上だと発表した。集計の正確さは不明だが、被害者の数は、今後、さらに増える可能性も排除されない。また、災害対策省によると、被害の多くは南東部パクティカー州とホースト州の人里離れた山間部で発生しており、アクセスの悪さから捜索救命活動が難航している。アフガニスタンの家屋の多くは、日干し煉瓦と土と木で建てられており耐震強度は低いことから、倒壊した家屋の下で未だに救出を待つ人も多いと考えられる。

 

図 震源地の地図

 (出所)公開情報を元に筆者作成。

 

 これを受けて、ターリバーンは、22日、アーホンドザーダ最高指導者が犠牲者とその遺族に弔意とお見舞いを表する声明を発出した他、国防省が救出チームを乗せたヘリコプターを派遣し、現地関係者と連携して対応に当たらせた。また、災害対策省が10億アフガニー(約1100万ドル)の拠出を決定した。今後、遺族に対しては1家庭当たり10万アフガニー(約1100ドル)が、負傷者の家族に対しては5万アフガニー(550ドル)が給付される。ムジャーヒド報道官は、被害は甚大であるとして、国際社会からの救命チームの派遣、食料・医薬品・衣服等の提供を含むさらなる人道支援を求めた。

 アフガニスタン国内からは、ガニー元大統領(UAE在住)、カルザイ元大統領、アブドッラー元国家和解高等評議会議長ら政治有力者が、哀悼の意を表するとともに、国際社会からの支援を求めた。

 国外からも多くの弔意が表明されるともに、人道支援の用意があるとの立場が示されている。国連専門機関が捜索救命活動を開始した他、米国、EU、英国、ドイツ、インド、パキスタン、トルコ、日本等をはじめ、多くの国の国家元首・外相・特使・大使らが哀悼の意を表明した。 

評価

  ターリバーンが実権を掌握して以降、アフガニスタンでは在外資産凍結に伴う国庫の枯渇、失業の増加、経済状況の悪化、通貨下落、物価高騰などによる深刻な人道危機が訪れた。国際社会からの支援の甲斐もあり「最悪の事態は避けられた」との認識が広まりつつあるものの、経済状況が低迷し、多くの人々が日々食べる物にも困っている窮状に変わりはない。こうした中、今回の地震の発生が重なったことはまさしく泣きっ面に蜂と呼び得る事態であり、アフガニスタン国民が直面する困難が増えたことを物語っている。

 多くの無辜の市民が被害に遭う中、まずは実効支配勢力であるターリバーンが人命の救助、負傷者の治療・看護、遺族や負傷者の家族への対応などに当たることが求められている。もっとも、ターリバーンは長らく反政府武装勢力の立場に置かれてきており、2021年8月に実権を掌握して以降、旧政権の官僚機構の多くを引き継いではいるものの、今回のような大規模な自然災害への対策における圧倒的な経験不足は否めない。ターリバーンが如何に国民に真摯に寄り添い、実効性ある対応を講じられるかが試されている。

 同時に、今回のような大規模自然災害の発生に伴う人道危機については、政治的な問題とは別に、国際社会が連携し、アフガニスタン国民の必要とする物資・資金・人員の支援、捜索救命活動への技術的協力、並びに、長期的な復旧支援などを着実に実行に移すことが重要である。アフガニスタンと良好な関係を築いてきた日本としても、政府、国際緊急援助隊、JICA、NGOなど官民一体となって、如何に即応的、且つ、効果的に対応できるかが求められている。

(研究員 青木 健太)

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