中東かわら版

№41 イラン:ボレルEU上級代表によるテヘラン訪問を経て、核合意再建に向けた協議再開が決定

 2022年6月25日、EUのボレル外務・安全保障政策担当上級代表によるテヘラン訪問を経て、イラン核合意再建に向けたイラン・米国間間接交渉の再開が決定した。アブドゥルラヒヤーン外相は同上級代表との共同記者会見で、「我々は、数日以内にウィーン協議を再開する用意がある」と明言した。また、同外相は、今回こそは米国が現実的、且つ公正なアプローチを取るよう期待すると発言した。

 ボレル上級代表はテヘラン訪問を振り返りつつ、直ちに、過去3カ月停止していたウィーン協議が再開されると述べ、EUが調整役を務めつつ、イランと米国が協議することになると発言した。同上級代表は、核合意は、経済、貿易、エネルギー資源開発、EU各国とのパートナーシップ、その他多数の利点がイラン側にあり、特に、ロシアのウクライナ侵攻が地政学的状況とエネルギーを取り巻く環境を大きく変えた旨述べた。

 同日、ボレル上級代表はシャムハーニー国家最高安全保障評議会書記とも会談した。シャムハーニー書記は、経済制裁の解除、及び核合意で約束される経済的利益の完全、且つ持続的な実現がイランの主要な目標だと述べ、これらの条件を重視する立場を示した。

 先立つ6月23日、アブドゥルラヒヤーン外相はロシアのラブロフ外相と会談した他、中国の王毅外相、及びオマーンのブーサイーディー外相と電話会談した。ラブロフ外相は会談で、イラン核合意再建を支持する立場を伝えたと報じられた。

評価

 2022年2月には大詰めと言われたウィーン協議は、ロシアによるウクライナ侵攻(2月24日)や、革命防衛隊の外国テロ組織指定の解除に代表される複数の争点を背景に3月上旬から停止していた。今回、ボレル上級代表の仲介で、イランの核開発を制限する核合意の再建に向けた協議再開が決定したことは、核不拡散、及び地域安全保障の観点から大きな意義がある。

 再開が決定した背景の一つには、米国側が核合意復帰に前向きなシグナルを送ったことがある。ボレル上級代表のテヘラン訪問に先立つ23日、ボレル上級代表はブリュッセルで米国のマレー・イラン特使と会談したが、その中でマレー特使が核合意に戻る米国の固い意志を強調したと伝えられる。ボレル上級代表の上記発言内容から見ても、ロシア・ウクライナ戦争を受けた現下のエネルギー価格高騰が、イラン産原油の市場回帰への期待を図らずも高めたともいえる。イラン側は一貫して、米国側が譲歩しさえすれば、合意に達することができるとの立場を堅持してきた。また、仲介役をフランスや域内国でなくEUが担ったことは、当事者双方がEUに中立的な仲介役として厚い信頼を寄せているともいえそうだ。

 今回の協議が3月以前と異なる点は、ホスト国が変更され得る点と協議の枠組みである。国家最高安全保障評議会に近い『ヌール・ニュース』は、カタルが新たなホスト国になる可能性が高いと伝えた。また、ボレル上級代表は、今後の協議がP4+1の枠組みで行われるとは発言しておらず、EUが調整役を務め、イランと米国が協議するとのみ述べている。仮に、ホスト国と枠組みが変更されるのだとすれば、直接協議に加わらないことになる英・仏・独・中・露の対応、またカタルのホスト国としての手腕が問われることになる。

 もっとも、マレー・イラン特使自身が5月25日に「核合意再建に向けた望みは希薄だ」と述べており、イラン・米国間には多くの争点が依然存在している。イランとの暗闘を繰り広げるイスラエルの動向も決して軽視できず、今後の趨勢を楽観視することはできない。7月中旬に予定される、バイデン大統領による中東歴訪で各国指導者と何が協議されるかも注目すべき点となろう。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「イラン:核合意再建に向けたウィーン協議の現状」2022年度No.4(2022年4月5日)

 

<中東分析レポート>【会員限定】

・「イランの「ルック・イースト」政策から見る外交方針」R22-03

(研究員 青木 健太)

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