中東かわら版

№160 トルコ:フィンランドのNATO加盟承認手続き開始を決定

 

 2023年3月17日、エルドアン大統領は、フィンランドのサウリ・ニーニスト大統領とアンカラで会談し、二国間の懸案事項である同国のNATO加盟問題について協議した。終了後、共同記者会見に臨んだエルドアン大統領は、「フィンランドが3カ国覚書での合意履行に向け誠実に歩んでいることを確認した」と述べ、トルコがフィンランドのNATO加盟議定書批准手続きを大国民議会(国会)で開始すると明らかにした。エルドアン大統領は、地震の際に差し伸べられたフィンランドからの支援に謝意を表明し、トルコはNATOの門戸開放政策を強く支持している国の一つであると強調した。一方、フィンランドとともに加盟を望むスウェーデンに関してエルドアン大統領は、トルコはスウェーデンにフィンランドと異なる対応はしてないとしながらも、同国内でトルコに対するクルディスタン労働者党(PKK)メンバーや支持者らによるデモが断続的に行われていること、トルコ政府が「テロリスト」と見做す、120人以上の身柄引き渡しリストを提出しているにもかかわらず、同国が対応していないことを挙げ非難した。エルドアン大統領は、スウェーデンとの交渉継続に言及しつつ、NATO加盟プロセスが今後どのように進展するかは、同国が取るべき具体的な措置次第だとし、トルコ側の要求に応じない限り、同国のNATO加盟には否定的にならざるを得ないとの考えを改めて示した。

 ニーニスト大統領は、フィンランドの加盟に向けトルコの前向きなステップへの移行を歓迎し、非常に重要な進展と評価する一方、同国のNATO加盟は共通の利害を持つスウェーデン抜きには成り立たないと強調した。

 トルコ、フィンランドの発表を受け、米国のサリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官は、フィンランドとスウェーデンはNATOの価値を共有する強力な2カ国であり、米国は両国が出来るだけ早期にNATO加盟国になるべきと考えていると述べた。さらにハンガリーに対しても右2カ国の加盟を承認するよう求めると同時に、エルドアン大統領のフィンランドの加盟手続き承認を歓迎した。

 同日、エルドアン大統領は、フィンランドのNATO加盟に関する議定書に署名し大国民議会に提出した。同国の加盟は、今後トルコ議会の承認を経て正式に批准される見通しである。

 

評価 

 

 フィンランドとスウェーデンは、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受け、それまでの軍事的中立政策を放棄し、NATOへの加盟を表明した。米国をはじめ他の加盟諸国は北欧2カ国の加盟を歓迎する意向を示したが、トルコは、30カ国すべての加盟国の合意を必要とする拡大支持の見返りとして、北欧2カ国にトルコの安全保障上の懸念に対処することを要求してきた。これに基づき、トルコ、フィンランド、スウェーデンの3カ国は、NATOの仲介で2022年6月のNATO首脳会議を前に協議を行い、「テロとの闘いにおけるトルコとの協力強化」、「テロに関連するトルコ系組織、特にPKKの全ての活動の阻止」、「トルコが『テロ犯罪者』として指名した人物の引き渡し」等を柱とする覚書に署名した。

 その後、当事国間において合意項目の進捗と評価を含めた交渉が重ねられてきた。こうした状況下、スウェーデンはトルコとの合意に基づいて、テロとの戦いにおける治安分野拡大のための憲法改正に着手し、翌2023年1月1日に改正憲法の施行後は、テロとの戦いに関する多くの法改正が行われた。だが、2023年1月のエルドアン大統領を標的とした過激な抗議行動や、デンマークの極右政治家ラスマス・パルダンによる、ストックホルムのトルコ大使館前でのコーラン焚書等、両国関係を損ない得る事案が相次いで発生したことで関係が冷え込み、トルコは加盟交渉の無期限停止を宣言した。2月20日に再開することが発表されたが、トルコはスウェーデン政府の対応に苛立ちを隠さず、同国のNATO加盟を認めないことを明らかにしていた。

 他方、スウェーデン政府からみれば、PKKはトルコと違い、自国内でテロや犯罪行為をしているわけではなく、一部過激化しているとはいえ、「テロリスト」としてデモを取り締まることは困難といえる。トルコが求める120人以上の身柄引き渡しについても、既に難民認定がなされている場合や、スウェーデンに帰化した人物も少なからずいることから、人権や表現の自由の先進国とも表される同国がトルコの要求通りに対応することは難しい。スウェーデンはフィンランドとともに7月のNATO首脳会議までに加盟したい意向だが、PKKをはじめとする安全保障上の懸念にトルコが妥協することはないと考えられ、現状において交渉の着地点を見出すことは容易ではない。

 一方、トルコと同様、未だ議会での批准手続きが行われていないのがハンガリーである。ハンガリー政府は、この1週間、何度も北欧2カ国の加盟批准に言及しているが、オルバン政権は手続きを先延ばしにしている。フィンランドの加盟承認手続きにトルコが踏み出したことで、一気に2カ国を承認するのか、トルコと同様1カ国に留めるのかも含め、ハンガリーが今後どのような対応を取るのかも注目点となろう。

 

 

(主任研究員 金子 真夕)

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