中東かわら版

№159 イスラエル:ウクライナへの対ドローン兵器輸出を承認

 ニュースサイト「Axios」(3月16日付)は、イスラエルとウクライナの匿名高官筋の情報として、2月中旬、コーヘン外相とガラント国防相が、イスラエルの軍事企業エルビット社とラファエル社に対ドローン兵器の輸出を許可したと報じた。この件は、コーヘン外相がキエフでゼレンスキー大統領と会談した2月15日に、同大統領に伝えられたという。イスラエルは、シリアにおけるロシアとの安全保障上の協力(『中東研究』第546号、金谷論文参照)を理由にウクライナへの軍事支援を拒否しつづけてきたが、大きな政策転換を迎えようとしている。

 イスラエルが輸出を承認した兵器は、ドローンを攻撃するタイプではなく、電波を妨害(ジャミング)してドローンの機能を停止させ、無力化するタイプで、ドローンの信号を妨害できる範囲は約40キロと報じられた。エルビット社は対ドローン・ジャミング・システムとして「ReDrone」、ラファエル社は「ドローンドーム」を製造している。後者は、ギリシャが2022年7月にトルコのドローンに対して国内配備したと報じられた兵器である。

 「Axios」によると、ウクライナ国防相代表団は最近イスラエルを訪問し、対ドローン・ジャミング・システムの説明を受けたが、契約の署名には至っていない模様である。ウクライナ軍は現状、75~90%の確率でドローン攻撃を食い止められており、イスラエルには弾道ミサイル防衛システムの提供を望んでいるためである。

 

評価

 イスラエル側は、対ドローン・ジャミング・システムは防衛目的の兵器であるため、輸出承認はイスラエルの対ウクライナ政策の大きな政策転換ではないと認識しているようである。しかし、自陣を攻撃しようとするドローンを無力化する兵器であるため、積極的な防衛目的の兵器といえるだろう。

 ウクライナへの軍事支援を拒否してきたイスラエルがこの時期に輸出承認に舵を切った理由は、与野党内に、友好国ウクライナで多数の犠牲者が出る現状を見過ごすせないという意見や、ウクライナ戦争でイランの攻撃型ドローンが使用されている事実を看過できないという意見が広がったことであると考えられる。実際に、ネタニヤフ首相はCNNのインタビュー(2月1日)やフランスのマクロン大統領との会談(2月3日)で、ウクライナへの軍事支援を示唆していた。イランのウラン濃縮活動が進む中、イスラエルはイランの軍事標的をシリアやイラン国内で攻撃してきたが、ウクライナ方面でも何らかの形で自国の軍事力を見せつける必要があると判断したと思われる。そのための方法として対ドローン・ジャミング・システムは効力が小さいかもしれないが、それはロシアとの関係を悪化させない配慮ゆえである。

 今後は、ウクライナがイスラエルの対ドローン・ジャミング・システムの購入契約を結ぶかどうか、またロシアがイスラエルに対してどのような反応を見せるか注目される。イスラエルはシリア方面の戦略のためにロシアとの友好関係を絶対的に守りたいが、ロシアにとってイスラエルとの関係は死活的重要性を持たない。ロシア外務省は、既に、ネタニヤフ首相のCNNインタビュー内容に不快感を示しており、ウクライナへの対ドローン兵器の輸出が実現した場合、イスラエル・ロシア関係の悪化は避けられないだろう。

 

【参考】

金谷美紗「シリアにおけるイスラエルとロシアの暗黙の協力」『中東研究』546号、2023年1月、80-89頁。

(上席研究員 金谷 美紗)

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