中東かわら版

№154 イラン:グロッシIAEA事務局長がテヘラン訪問、査察強化で合意

 2023年3月3~4日、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長がテヘランを訪問した。3日、空港でキャマールバンディー原子力庁報道官に出迎えられた同事務局長は、同日、エスラーミー原子力庁長官と会談し、核開発活動の保証措置について協議した。翌4日、グロッシ事務局長は、ライーシー大統領、及び、アブドゥルラヒヤーン外相と個別に会談した。ライーシー大統領は、イランは最高指導者のファトワ―(法学裁定)によって核兵器保有に反対していると述べ、IAEAに対して大国の影響を受けずプロフェッショナルに活動するよう求めた。

 4日付共同声明では、イラン原子力庁とIAEAが概ね以下3点で合意したことが発表された。

 

  • 両者間のやりとりは、包括的な保証措置協定に基づき、相互の協力の精神の下で続けられる。
  • 未申告3拠点での保証措置に関わる問題に関して、イランはIAEAへの情報提供や査察受け入れなどで協力する。
  • イランは、IAEAがさらなる適切な検証と査察活動を行うことを、自発的に認める。具体的な方法についてテヘランでの技術的会合で決定される。

 

 グロッシ事務局長は4日の記者会見で、高濃縮ウランがイランで検出された一報を深刻に受け止め、イラン政府と可能な限り高いレベルで対話する必要があると判断したためテヘラン訪問を決定したと述べた。その上で、同事務局長は記者からの質問に応えつつ、イランは核施設への査察受け入れの継続、技術的会合の開催、監視カメラの再設置等について合意したと述べた。昨年6月、イランは、IAEA非難決議を受けて、監視カメラの停止を表明していた(詳しくは『中東かわら版』No.30参照)。

 また、同事務局長は、フォルドウ核施設等への査察を50%強化するとイラン側に伝えた旨述べた一方、検知された濃縮度84%の高濃縮ウランは変動値の可能性がある、現状、84%の高濃縮ウランは蓄積されていないことを確認したと発言した。

 これを受けて、3月6日付『ボイス・オブ・アメリカ』(米国資本)は、匿名の米国務省報道官が、IAEAによるイランとの関与の努力を歓迎し感謝すると発言した旨報じた

 

評価

 IAEAのグロッシ事務局長自らがイラン政府高官とテヘランで協議し、イラン側が84%の高濃縮ウランを蓄積していないと確認できたことは、地域の緊張緩和に向けて明るい一歩だったといえる。2月19日付『ブルームバーグ』の報道を受けて、米国及びイスラエルはイランによる核兵器保有を警戒するとともに、これが意図的なものであったのかどうかを注視していた。米政府報道官がIAEAの取り組みを歓迎するとしていることからみても、今次訪問は、イラン核問題を巡る疑念と懸念の解消に一役買った。

 一方で、イランは「核の平和利用」を掲げつつも、ウラン濃縮活動を高次元で続けており、現在、ウラン濃縮度は60%にまで高まっている。元々、トランプ前米政権が2018年5月に核合意から一方的に離脱したことが事の発端とはいえ、イランによる核合意の履行一部停止措置が、結果として「核の平和利用」との大義にそぐわない段階にイランをいたらしめたことも事実である。このため、原子力の平和的利用からの軍事転用防止を目的とするIAEAが、イランとの円滑なコミュニケーションを確保することが今後益々重要となる。

 今後の予定を見渡すと、3月6日に予定されるIAEA理事会において、イランのウラン濃縮活動と査察体制、及び、核合意再建に向けた交渉の再開が議論されることになる。イランはかねてより、IAEAは政治的に中立でなく欧米寄りだと非難してきたことから、IAEAが中立的、且つ、独立してイランと向き合えるかが焦点となる。また、イランが米国との核合意再建に向けた交渉を再開させ、革命防衛隊の外国テロ組織指定解除や、バイデン政権後に米国が再び離脱しないことの保証等の争点において、譲歩できるかも課題である。一方で、イラン国内では革命防衛隊の発言力が強まっているため楽観的な見通しを持つことは難しく、このまま核合意が形骸化したままであればイランの核開発を制限する枠組みの不在は続く。

 

【参考】

「イラン:国際原子力機関が84%の濃縮ウランを検出と『ブルームバーグ』が報道」『中東かわら版』No.147。

「イラン:国際原子力機関(IAEA)が非難決議を採択」『中東かわら版』No.119。

「イラン:IAEA非難決議の採択とイランの反応」『中東かわら版』No.30。

(主任研究員 青木 健太)

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