中東かわら版

№153 イラン:多数の女子学生が中毒症状で病院に搬送

 2023年3月1日前後から、多数の女子学生がイラン各地で、中毒症状により病院に搬送される事案が相次いでいる。発端となったのは、2022年11月30日、中央部ゴム州の学校で発生した18名の学生が病院に搬送される事件だった。同様の事件は、北西部アルダビール州や中央部テヘラン州等でも続いた。被害者の多くは、筋肉の痛み、呼吸困難、吐き気、倦怠感等を訴えているが、致死性のものではない模様である。2023年2月28日付『BBCペルシャ語放送』は、これまでに800名以上の学生が被害に遭い、その多くは女子学生と報じた。また、サフィーダーン国会教育委員長は、調査の結果、窒素ガスが使用された可能性が高いと発言した

 一連の事件を受けて、3月1日、ライーシー大統領は閣議で、真相究明に向けて早急な調査に取り組むよう内務省に指示した。現時点で、いかなる集団・個人からも犯行声明は出されていないが、被害者の親らは州知事庁舎の前で当局に責任を求める抗議運動を起こすなどした。

 こうした動きを受けて、同日、プライス米国務省報道官は記者団に対し、イラン当局が様々報じられる毒物事件について綿密な調査を行い、実行犯に責任を負わせることを期待すると発言した。また、翌2日、ワトソン米国家安全保障評議会報道官も反応を示し、事件が抗議デモへの参加と関係する可能性があるとの報道があり憂慮している、信頼が置ける独立した調査と、説明責任が求められるとツイートした

 

評価

 現時点で、学生らは何らかの毒ガスの被害を受けた可能性が高いとはいえるが、それでは一体、誰が、どのような目的で実行したのかは不明である。学校で学ぶ罪のない女子学生が標的とされていることもあり、イラン国内では当局の初動の遅れに対する不満が高まっている。こうした中、女子学校を閉鎖したい勢力の仕業であるといった見方や、当局が黙認しているといった批判も散見され、流言飛語が飛び交っている状況である。現在まで正確な事実関係が確認されていないことから、警察、保健省、情報省等による真相究明が待たれる。

 こうした中、注目されるのが、今次の事件が昨年来続く抗議運動と結びつく可能性と、諸外国からの反応である。被害者家族を中心に民衆の間には、当局に対する不満が高まっており、日頃より鬱積した体制への不満と連動した場合、より大きな問題となる懸念がある。体制側としては、問題を軽視せず、実行犯を特定した上で、司法の裁きを下すことが求められる。また、今次の事件は、原則的に、イランの国内治安問題だが、米国を始め諸外国がイラン当局の役割に言及する現状に鑑みれば、イラン側が内政干渉と受け止めて反発を強め、対外問題に発展する恐れもある点には留意が要るだろう。

(主任研究員 青木 健太)

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