中東かわら版

№152 イラン:ドイツ人外交官2名にペルソナ・ノン・グラータを通告

 2023年3月1日、イラン外務省は、ドイツ人外交官2名にペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)を通告し、国外退去を命じた。キャナアーニー外務報道官は同日、ドイツ政府がイランの内政・司法に干渉し無責任な対応を取ったため、今次措置を講じたと説明した。これを受けて、ドイツ外務省は同日、2月22日にイラン人外交官2名のドイツからの国外退去を命じていたことから「予測していた」としつつ、それでも「いかなる理由があれ正当化されない」とイラン外務省の措置に抗議の意を示した

 

評価

 今次の動きの発端は、イラン政府が先立つ2月21日に、イラン・ドイツ二重国籍保持者ジャムシード・シャールマフドに死刑を宣告したことである。イラン政府は、シャールマフドは米国のスパイであり、過去にイラン国内での治安事案の計画・実行に関与したと糾弾していた(なお、シャールマフドの家族は、同氏が過去の攻撃に関わったことはないと否定している)。一方のドイツ政府は翌22日、ドイツ国籍保有者への権利侵害は受け入れられないとして、駐ドイツ・イラン臨時代理大使を呼び出し抗議するとともに、イラン人外交官2名にペルソナ・ノン・グラータを通告し、国外退去を命じた。ドイツ政府は、死刑取り消しと、法の支配の原則に基づく公正な司法手続きを求める立場を取っている。要約すれば、今次措置はイランが突如として講じたものではなく、両国間での応酬のひとつの結果といえる。

 今後、シャールマフドの治安事案への関与については、イラン国内の司法手続きに沿って裁かれるものと見込まれるため、死刑宣告が取り消されるかどうかは現時点で不明といわざるをえない。これに対して、ドイツは自国民保護の観点からイラン批判を続けるものと考えられる。このため、イラン・ドイツ関係はさらに悪化する可能性がある。最近、イラン外務省は、ドイツ政府による内政干渉に対して、駐イラン・ドイツ大使を累次呼び出すなど抗議してきた(11月14、28日、12月9日)。ヒジャーブ着用義務を巡る人権問題を巡り両国が軋轢を深める状況下、今次の動きはさらに二国間関係に悪影響を及ぼすと見られる。

 これ以外にも、欧米各国は、ロシアへのドローン供与疑惑でもイランとの軋轢を深めている。欧米各国にとって、イランの人権問題やウクライナに侵攻したロシア寄りの外交姿勢は看過できない問題である。他方、イランの観点からは、こうした動きは外国による内政干渉として映っている。日本を含む各国は、ロシア・ウクライナ戦争、核開発、弾道ミサイル開発、地域での代理勢力支援活動、人権問題等々を巡り、今後イランに対して難しい対応を迫られるだろう。

(主任研究員 青木 健太)

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