中東かわら版

№151 UAE:Abrahamic Family Houseでの一般訪問客の受入開始

 2023年3月1日、アブダビのサアディーヤート島にあるAbrahamic Family House(AFH)が、一般訪問客の受け入れを開始した(※)。同施設はモスク、教会、シナゴーグ、即ち3つのアブラハムの宗教(イスラーム、キリスト教、ユダヤ教)の礼拝所が並び立つ施設で、先立つ2月16日以来、礼拝を目的とした信徒の訪問を既に受け入れていた。

※訪問には事前予約が必要で、以下のウェブページから可能。

https://www.abrahamicfamilyhouse.ae/

 

評価

 AFHの建設は、2019年2月にアブダビで、ローマ教皇フランシスコとアズハル総長アフマド・タイイブが署名した「世界平和と共生のための人類愛に関する文書」に基づいて進められてきた。この期間、UAE政府はAFHを、自国が進める寛容・共生にかかわる政策のマイルストーンと位置づけてきた。周辺、とりわけアラブ・イスラーム王朝史の中心である東地中海諸国では、寛容や共生にかかわる政策をアピールする際、各国が有するイスラーム教徒・キリスト教徒・ユダヤ教徒の共存の歴史が引き合いに出されることが多い。一方でUAEのような、歴史的に見ればアラブ・イスラーム王朝の中心地ではなかった土地に関しては、そうした宗教的多様性を伴う過去についてあまり知られていない。したがって、寛容・共生のアピールに向けては、それを裏づける状況を新たに創造する必要がある。AFHは、多宗教間の共存がUAEに存在し、それを政府が認め、後押ししていることの証拠としての意義を与えられている(実際、UAE在住のユダヤ教徒数はGCCの中で突出して多い)。

 加えて、UAE初のシナゴーグを有するAFHが、アブラハム合意を経てイスラエルと国交を樹立したUAEにとっては重要な外交的意味を与えられていることも疑いない。アブラハム合意以来、UAE・イスラエル間の貿易や投資は増加し、観光客やビジネスパーソンの往来とそれに伴うインバウンドも注目を集めている。ただし、こうした二国間の利益のみがクローズアップされては、UAEとしてはアブラハム合意の公益性をアピールできない。例えば、イスラエルとの国交樹立がパレスチナ情勢の安定化に資すると訴えてきたUAEだが、これを裏づけるような動きは目下ほとんど見られない。こうした状況下、UAEにとって、寛容・共生といったソフトパワー、かつ国際社会で共有されている価値を反映したものと位置づけられるAFHは、アブラハム合意の意義をアピールする材料としても期待されている。

(主任研究員 高尾 賢一郎)

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