中東かわら版

№149 アフガニスタン:パキスタン国防相がカーブルを訪問しテロ対策について協議

 2023年2月22日、パキスタンのアーシフ国防相率いる代表団がカーブルを訪問し、ターリバーンのバラーダル副首相代行らと会談した。パキスタン代表団には、軍統合情報局(ISI)長官、アフガニスタン特使らも同行した。ターリバーンのムジャーヒド報道官によれば、会談では、治安、アフガニスタンに飛来するドローン、敵対的勢力の活動、貿易関係、国境管理等が協議された。また、バラーダル副首相代行は、パキスタン国内で拘束されるアフガン難民の処遇、及び、トルハム国境等での円滑な通行について改善を要望した模様だ。一方、22日付パキスタン外務省声明によれば、パキスタン・ターリバーン運動(TTP)、及び、「イスラーム国ホラーサーン州」(ISKP)を筆頭に、地域で増大するテロの脅威への対処が会談で議論された。

 

評価

 今次訪問の主要な議題は、テロが両国に与える脅威を如何に抑えるかであったと考えられる。パキスタンでのイスラーム統治実現を標榜するTTPは、パキスタンにとって治安上の脅威である。2022年6月にはパキスタン政府とTTPは一時停戦に合意したものの、11月にTTPは停戦を延長しない旨発表、12月頃からパキスタン治安部隊への攻撃再開を指示した。2023年1月30日、パキスタン北西部のペシャーワル市のモスクの爆発では、昼の礼拝のために集った市民100名超が死亡した(注:TTPは公式には無関係と主張)。目下、パキスタン治安機関にとってTTPの活動を抑え込むことが焦眉の急であり、過去には水面下で協議を仲介したこともあるなど、TTPと密接な関係を有するターリバーンから協力を得たいものと見られる。

 そして、ISKPへの対策も両国にとって重要である。ISKPはアフガニスタン国内で、シーア派教徒への攻撃のみならず、最近では、ロシア大使館(2022年9月)、中国人客の利用が多いホテル、パキスタン大使館(ともに12月)を標的に治安事案を引き起こしてきた。実害を被ったパキスタンは、ISKPの活動が自国に波及・拡大することは避けたいはずであり、実効支配勢力ターリバーンにテロ対策面での活躍を期待しているのだろう。

 この他、両国関係においては、国境管理、アフガン難民の処遇を巡る問題等、課題が山積している。今次訪問にISI長官が同行していることから見ても、パキスタンとしてはターリバーンをしっかり制御しつつ、自国にとっての利益を確保したい意向がうかがえる。一方のターリバーンは、現在の状況を外国による「占領」から解放されたと認識しており、パキスタンからの過度な介入や干渉には強く反対すると考えられる。

 なお、国際テロ組織がアフガニスタンに潜伏する事態は、日本を含めた諸外国にとっても大きな懸念事項である。2023年2月には、ISKPからの脅威情報があったためか、在カーブル・サウジ大使館職員が国外に退避したとも報道された。2023年2月1日付国連報告書は、ISKPが今後、アフガニスタンにおける中国権益、インド権益、イラン権益に攻撃を加える危険性を警告している。今後、ISKPが日本を含む外国権益を標的とした攻撃に及ぶ危険性には充分留意する必要がある。

 

【参考】

「ペシャーワル市のモスク爆破事件とパキスタン・ターリバーン運動の反応」『イスラーム過激派モニター』M22-21。※会員限定。

(主任研究員 青木 健太)

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