中東かわら版

№148 トルコ:南部で相次ぐ大地震の発生

 

 2023年2月6日にトルコ南東部ガズィアンテプ、カフラマンマラシュの県境付近を震源として発生した地震から2週間以上が経過した。この地域では、2月6日の4時17分及び、同日13時24分の二度にわたり、マグニチュード7以上の大きな地震が発生し、トルコと隣国シリア北西部に甚大な被害を及ぼしている。さらに2月20日には南部ハタイ県で、マグニチュード6以上の地震が観測され、新たな死傷者が報告されている他、6日の地震で影響を受けた建物の倒壊も相次いだ。

 内務省災害緊急事態対策庁(AFAD)の発表によれば、これらの地震による2月21日時点の死者数は4万2310人、避難者数は44万8018人に上っている。最低気温が氷点下となる日も珍しくない被災地では、寒さ対策や物資不足が深刻化しており、時間の経過とともに救助活動よりも被災者支援への需要が高まっている。2月19日、AFADはカフラマンマラシュとハタイ2県を除く地域での救助活動を終了すると発表した。今後は復興対策に重点を移すとみられる。

 エルドアン大統領は、地震発生直後から何度も被災地を訪問し、国民に向けて団結を呼びかけている。直近では、2月20日のハタイでの地震発生直後に、民族主義者行動党(MHP)のバフチェリ党首とともに同県入りし、記者会見で、壊滅的な地震に見舞われた地域の復興に向けて政府は可能な限りの支援を実施すると強調した。

 今般の地震で被害が拡大した要因として、政府の初動対応の遅れや、建物が下から層になって崩壊する、「パンケーキクラッシュ」と呼ばれる現象が多発したことが度々報じられている。さらに、1回目の地震の発生時刻が明け方で在宅者が多かったことも、建物の下敷や生き埋めで犠牲になる人が増加した要因の一つとなっている。

 野党、共和人民党(CHP)のクルチダルオール党首は、今回の地震で被害が拡大した理由は、政権と建設業者との癒着によるずさんな建設工事であると発言し、エルドアン政権への責任追及を強めている。

 

評価 

 

 わずか2週間で3回もの大規模な地震に見舞われた南東部では、2月6日以降、余震が7184回発生しており、多くの市民は未だに恐怖と隣り合わせの生活を送っている。また、地震の影響による建物の倒壊や破壊された町の状況が明らかになるにつれ、政権への批判も強まっている他、初動対応の遅れや救助活動の進捗をめぐっても政権への不満が表面化した。

 エルドアン大統領は、震源地となったガズィアンテプ、カフラマンマラシュを含む10県(アダナ、アドゥヤマン、ディヤルバクル、ハタイ、キリス、マラティヤ、オスマニエ、シャンルウルファ)で3カ月間の非常事態宣言を発出したが、同対応については、政府批判封じ込めのための統制強化措置との批判も出ている。

 さらに、略奪や窃盗等、被災地での治安悪化が深刻さを増しているだけではなく、シリアと国境を接するハタイ県が甚大な被害を受けたことで、トルコ側の国境管理が行き届かない可能性があり、当局はシリアからイスラーム過激派、「イスラーム国」戦闘員及び、非正規移民らが流入することを警戒している。

 大地震の発生を受け、国外から義援金や支援物資が続々と到着している一方で、被災地での需要と供給のアンバランスも指摘されている。エルドアン政権は、災害対応に関する政府の努力を強調するが、建設業者との汚職疑惑が大きく取り沙汰される等、国民の政権に対する視線はこれまで以上に厳しくなっている。少しでも舵取りを間違えれば選挙で大敗する可能性もあり、引き続き困難な政権運営が予想される。

 

(主任研究員 金子 真夕)

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