中東かわら版

№147 イラン:国際原子力機関が84%の濃縮ウランを検出と『ブルームバーグ』が報道

 2023年2月19日、『ブルームバーグ』(米国資本)は、イラン国内で84%の濃縮ウランを国際原子力機関(IAEA)査察官が検出したと匿名の外交官2名の話を元に報じた。同記事によると、ウラン濃縮度84%はこれまでイラン国内で確認された中で最も高く、今後、IAEA査察官らがイランが意図的にウラン濃縮を進めたのか、あるいは同位体分離の際に遠心分離機と接続するパイプ・ネットワークの中に意図せずして蓄積されたものであるかを判断することになる。同日、イラン原子力庁のキャマールヴァンディー報道官は、イランは現在までに60%を超えるウラン濃縮を行ったことはないと報道を否定し、60%を超える分子が検知されたことが必ずしも60%以上のウラン濃縮を意味するわけではない、IAEAは政治的に偏向せずプロフェッショナルに職務を遂行すべきだと反論した。

 

評価

 イランによるウラン濃縮の実態がどのようなものかについては、IAEAによる技術的検証を待つ必要がある。しかし、仮にイランがウラン濃縮度を60%以上に引き上げた場合、核兵器に使用できるレベルに大幅に迫ることになり、中東の安全保障環境に大きな影響を及ぼす。一般的に、天然ウランに含まれるウラン235(核分裂を起こし大きなエネルギーを放出する)の含有量は約0.7%であり、原子力発電用には3~5%へ、核兵器用には90%へ濃縮することが必要とされる。この点で、「84%」という数値は核兵器保有に近づく水準であり、イランが核保有した場合に仮想の標的に晒されることが必至なイスラエルが、これを実存上の脅威と見做すことは避けがたい。今後のイスラエルの対応を見極める必要がある。

 既にイスラエルはイランの核保有を阻むべく、イラン核関連施設へのサイバー攻撃や核科学者の暗殺を実行してきたと囁かれている(注:イスラエルは公式には否定)。また、最近では、イランの軍事的抑止力の強化を後退させるべく、中部エスファハーンの軍事工場へのドローン攻撃(『中東かわら版』No.137参照)等も実行したと見られる。これに対し、ペルシャ湾を航行中のイスラエル人実業家が所有する石油タンカーがドローン攻撃を受ける事案(2月10日)が発生する等、域内では小競り合いが続いている。イスラエル側の脅威認識を踏まえれば、核開発の進展を抑え込むためのイラン権益への攻撃、対するイランによるイスラエル権益(商船含む)への報復合戦が続く危険性はある。

 問題の背景には、イランの核開発を抑制する枠組みが、現時点で有効に機能していないことがある。現在、第三国(イラク、オマーン等)仲介により、核合意再建に向けてイラン・米国間でメッセージがやりとりされている模様である。今次報道を受けて、ウクライナ戦争への対応に追われるバイデン米政権が、外交交渉を通じ、本格的にイラン核問題の解決に乗り出せるかが課題となる。

 

【参考】

「イラン:ウラン濃縮度60%への引き上げを宣言」『中東かわら版』2021年No.10。

(主任研究員 青木 健太)

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