中東かわら版

№146 イラン:ヒジャーブを巡る抗議活動の現状

 2023年2月16日、イラン各地で、小規模な抗議デモが発生した。イラン政府は1月7日、抗議デモ参加者のムハンマド・マフディー・キャリーミー氏とセイエド・ムハンマド・ホセイニー氏の2名に死刑を執行していた。今次デモは、その死後40日目に当たり、追悼を目的として行われた。抗議デモは、首都テヘラン、キャラジ、中部エスファハーン等で行われた模様である。なお、上記以外にも、デモ参加者の死刑は少なくとも2回(2022年12月8、12日)執行されている。

 2022年9月16日のマフサー・アミーニーの死亡を受けて、イランでは抗議デモが各地に広がった。2月17日付『AP通信』は、これまでに529名が死亡、1万9700名以上が拘束されたと伝えている。現在、治安部隊の弾圧もあり、街頭での大規模な抗議活動は減少傾向を辿っている。2月11日の革命記念日44周年では、体制による動員があったためか、体制を支持する人々が街に繰り出す様子が国営テレビなどで大々的に伝えられ、ハーメネイー最高指導者は多くの人々が行進した様子を称賛(15日)した。一方、革命記念日当日には、ライーシー大統領のテレビ演説放送が「アリーの公正」を名乗る組織にハッキングされ、「ハーメネイーに死を」「独裁者に死を」との掛け声が一時放送された。同日、ワシントンDC、ロンドン、パリ等では、在外イラン人による抗議集会も大々的に開かれた。

 

評価

 街頭での大規模な抗議デモが減少傾向にあるからといって、抗議活動が「終息した」と結論づけることは難しい。イランにおいて死者の追悼のために重要とされる死後40日目に、デモ参加者らを弔う抗議デモが散発している他、在外イラン人が「自由」や「民主主義」を求め、反体制的な色彩の強い集会を開催する動きが続いている。反体制勢力によるサイバー攻撃も、イラン国民への心理的影響を考えれば軽視できない。これに対し、体制側は、検事総長による風紀警察の活動休止発言、「官製デモ」の発動、著名人の拘束、及びデモ参加者の死刑執行等を通じ、硬軟織り交ぜながら鎮静化に当たっている。反体制勢力側に、統一された指導者が不在であり、現体制に代わる受け皿が見当たらないことからも、抗議活動が直ちに政治変動に結びつくかには疑問符が付くが、国民の不満が燻る現状に鑑みれば長期化する可能性はある。

 現在、体制側が抗議活動を抑え込むことができているのは治安機関の働きによる部分が多く、これは別の見方をすれば最高指導者や宗教界が軍部に依存せざるを得ない状況になったことを示している。こうした状況は、内政面もさることながら、対外関係面にも大きな影響を及ぼす。というのも、三権の長が保守強硬派で占められて体制が強権化する中、軍部の声が強くなり対外政策にそれがそのまま反映される状況が生まれ得るからである。EU仲介による核合意再建交渉は停滞しているが、イラン・米国間で第三者を介したメッセージのやりとりは続いているようだ。この過程で、軍部が、革命防衛隊の外国テロ組織指定解除を強く要求することは避けられず、交渉が再開されたとしてもなお紆余曲折が予想される。

 

【参考】

「イラン:抗議デモの継続と「指導巡視隊」の活動休止をめぐる動き」『中東かわら版』No.125。

「イラン:長期化する抗議デモ」『中東かわら版』No.109。

「イラン:ハーメネイー最高指導者が抗議デモについて初めて言及」『中東かわら版』No.95。

「イラン:ヒジャーブ着用取締りによる女性の死亡をめぐり各地で抗議デモが発生#2」『中東かわら版』No.90。

「イラン:ヒジャーブ着用取締りによる女性の死亡をめぐり各地で抗議デモが発生」『中東かわら版』No.88。

(主任研究員 青木 健太)

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