中東かわら版

№143 イラン:革命記念日44周年を控えて地下空軍基地を公開

 2023年2月7日、イラン空軍は、地下空軍基地「オガーブ44」(注:オガーブは鷲の意。44は革命記念日にちなんでと推測される)を公開した。同様の地下空軍基地はイラン各地の山間部に複数建設されている模様だが、今回が初めての地下空軍基地の公開となる。同基地は、戦闘機や無人機を格納・運用することができる。今次の動きを含め、イラン体制(注:ハーメネイー最高指導者及び革命防衛隊に代表される治安機構と宗教界を含めた中央権力)は2月11日に迎える革命記念日44周年を目前に活発な動きを見せており、断片的なるも、それらを簡潔にまとめたものが下表である。

 

表 イラン革命記念日44周年直前に行われた主な出来事

月日

主な出来事

1

30

ハーメネイー最高指導者がホメイニー廟を訪問し追悼した。

2

3 

ハーメネイー最高指導者がイマーム・アリー生誕祭前日に際し、大勢の少女らと面会し信心深くあるよう演説した。

5

ハーメネイー最高指導者が、抗議デモ参加者を含む数万名に恩赦を表明した。

7

空軍は、地下空軍基地「オガーブ44」を公開した。

7

通信・IT省とイラン宇宙機関は、国産衛星「トロー3」(注:トローは日・月・星等が昇ることの意)と「ナーヒード2」(注:ナーヒードは金星の意)を公開した。

8

ハーメネイー最高指導者が、1979年2月8日にパフラヴィー政権(当時)の空軍将校らがホメイニー師に忠誠を誓ったことにちなみ、空軍司令官らの前で演説した。

(出所)公開情報を元に筆者作成。なお、網羅的なものではない点に要留意。

 

評価

 今回の地下軍事基地公開が国威発揚を目的としていることは間違いないと思われるが、革命記念日44周年にいたる過程で起こっている主要な出来事を眺めてみると、いくつかの異なる視座が得られる。一つ目に、ハーメネイー最高指導者が少女らと面会したり、大人数に恩赦を与えたりしていることからは、昨年9月以降長期化する国内での抗議行動を抑えるべく、体制が国民との距離を縮めようと努めているとわかる。昨年12月の検事総長による「指導巡視隊」の活動休止発言(詳しくは『中東かわら版』No.125参照)の動きと合わせて考えても、体制側としては路上で民間人に苛烈な弾圧を加える一方で、柔軟な姿勢もアピールする「硬軟両戦術」で事態を鎮静化させたい考えと推測される。二つ目に、過去に核関連施設への破壊工作、核科学者の暗殺、革命防衛隊幹部の暗殺、軍事工場へのドローン攻撃(詳しくは『中東かわら版』No.137参照)等が続くなか、イラン軍部はイスラエルを仮想敵国として万全の備えを講じていると考えられる。実際、7日、革命防衛隊系テレグラム・チャンネルは、公開式典に参加したバーゲリー軍参謀長が、シオニスト体制(注:イスラエル)がイランに対する脅威を強めている、空軍能力・ミサイル防衛能力・抵抗枢軸を強化する必要がある、シオニスト体制はイランから距離がありそのために航空機を使用してくる、このような安全な基地によって迎撃できるのだ、と発言した旨伝えている。現状、街頭での大規模な抗議行動は収まり、欧米諸国も中露への対応に追われてイランに対し経済制裁以上の有効な手段を講じられていない。今後、イラン体制としては、国民融和を強調するとともに、抑止力の強化に努め、「内憂外患」状態の解消を図るだろう。

(主任研究員 青木 健太)

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