中東かわら版

№142 モロッコ:サンチェス西首相のモロッコ訪問、友好関係の維持へ

 2023年2月1~2日、スペインのサンチェス首相は閣僚12人とともにモロッコを訪問し、第12回モロッコ・西ハイレベル会合に出席した。両国のハイレベル会合の開催は8年振りであり、今回は二国間関係の強化に向け、経済や農業、水資源管理、再生可能エネルギー、不法移民対策、テロ対策、文化、教育といった分野での協力に係る19の協定が署名された。また、サンチェス首相は両国間の相互尊重を約束するとともに、両政府関係者の演説や政治的行為がそれぞれの主権領域に影響し、相手側の気分を害することを全て避けると明言した。さらに、サンチェス首相はモロッコ・西経済フォーラムで、モロッコでの共同プロジェクトへの投資のため、8億ユーロ規模の新たな融資枠も発表した。

 なお、サンチェス首相は訪問中、ムハンマド6世国王と会談しなかったが、モロッコへの出発に先立ち、同国王と電話会談を行っており、二国間パートナーシップが新しい段階に進展した点を確認した。

 

評価

 モロッコ・スペイン関係は、2022年3月にサンチェス首相が西サハラ問題でモロッコ寄りの立場を表明して以降、改善傾向にある。スペインのモロッコ支援として、モロッコがアルジェリアからのガス供給停止に伴いガス不足問題に直面した際、スペインはマグリブ・ヨーロッパ・ガスパイプラインを通じて、モロッコにガス(※主にアメリカ産液化天然ガスをスペインで再気化したもの)を輸出した。また最近では、サンチェス首相が率いるスペイン社会労働党(PSOE)が、国際的な贈収賄問題にモロッコが関与している可能性を調査するための欧州議会の決議に反対票を投じた。

 サンチェス首相がモロッコ関係重視の姿勢をとる背景には、スペイン国内での過激派掃討作戦でモロッコ治安当局の積極的な協力を引き出すほか、アルジェリアとの貿易不振に伴い経済的損失を受けるスペイン企業に代替市場を提供する狙いがあると考えられる。一方のモロッコとしては、フランスとの関係改善が進んでいない中、欧州連合(EU)加盟国内でモロッコの国益を死守するような動きをとるスペインに期待を寄せていると見られる。しかし、モロッコ・スペイン友好関係が深化するにつれて、両国と対立を深めるアルジェリアは反発を強めることから、マグリブ・ヨーロッパ・ガスパイプラインのアルジェリア・モロッコ間ルートが再開する可能性はより一層低くなった。

 

【参考】

「モロッコ:西サハラ問題でスペインと関係改善へ」『中東トピックス』T21-12。※会員限定。

「モロッコ:スペインからガス輸入の開始」『中東かわら版』2022年No.44。

「ウクライナ危機と北アフリカからのエネルギー供給の可能性 ――西サハラ問題とリビア紛争の影響――」『中東分析レポート』No.R22-10。※会員限定。 

(研究員 高橋 雅英)

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