中東かわら版

№140 イスラエル:スーダンとの関係正常化交渉

 2023年2月2日、イスラエルのエリ・コーヘン外相は同国外相として初めてスーダンを訪問し、ブルハーン主権評議会議長(軍事政権のトップ)、サーディク外相とそれぞれ会談した。会談ではイスラエルとスーダンの関係正常化を中心に話し合われ、その他、治安、農業、エネルギー、保健、水問題、教育の分野における協力についても議論された。コーヘン外相はイスラエルに帰国後、スーダンと近いうちに関係正常化合意に署名できると述べた。

 イスラエルとアラブ諸国の関係正常化合意、通称「アブラハム合意」は、2020年にUAE、バハレーン、モロッコと署名し、スーダンも署名に名乗りを上げていた。しかし、スーダン国内での関係正常化への反対や軍事クーデタによって、関係正常化交渉は頓挫していた。コーヘン外相は、スーダンとアブラハム合意に署名するためには同国が文民政権に移行する必要があると述べたが、同時に「数カ月以内にワシントンで署名式典を行えるだろう」と発言した。これは、スーダンとの関係正常化交渉に具体的な進展があることを示唆する。

 

評価

 コーヘン外相は数カ月以内の署名を示唆したが、スーダンが文民政権に移行する見通しは不透明である。ただし、スーダンはイスラエルとの外交関係樹立を通じて西側諸国から投資を呼び込み、経済発展の基盤としたいはずであり、今後もイスラエルとスーダンの間で外務省高官や諜報機関レベルで頻繁な協議が行われると思われる。

 イスラエルがスーダンと関係正常化を目指す理由は、先立ってアブラハム合意に署名した3カ国と同様、国際社会における反イスラエル世論の縮小と対イラン包囲網の形成であり、特に後者が安全保障上、重要な意味を持つ。イランの非正規軍事活動(商船への攻撃、海上武器密輸)が活発なアデン湾から紅海の航路をスーダン、サウジ、エジプトが監視できる状況が実現すれば、それはイスラエルにとって貴重な諜報網となるだろう。

 最近、イスラエルの親イスラエル勢力形成の外交は活発で、スーダンの他に、チャドやアゼルバイジャンとの関係強化も注目される。チャドとは2019年に外交関係を回復し、今月2日、テルアビブにチャド大使館が開設された際には、式典にマハマト・デビ大統領が出席した。イスラエルは、サヘル地域でイランやヒズブッラーが活動していると疑っており、チャドとの関係強化は対イラン包囲網形成の意味合いが大きい。アゼルバイジャンも昨2022年11月にイスラエルでの大使館開設を決定し、今年1月、駐イスラエル大使が任命された。イスラエルは既にアゼルバイジャンと軍事・経済面で密接な協力関係にあるが、最近、イランとの緊張が高まっている同国と対イラン戦略でさらに協力を深化させる意図があると思われる。この他、インドネシアやモーリタニアとの関係正常化交渉も進んでいると言われている。

(上席研究員 金谷 美紗)

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