№139 リビア:メローニ伊首相のトリポリ訪問、ガス開発契約の締結
イタリアのメローニ首相は2023年1月18日より北アフリカ歴訪を開始し、28日にトリポリを訪問した。イタリア代表団には、タヤーニ副首相兼外務・国際協力相やピアンテドージ内相といった主要閣僚に加え、伊炭化水素公社「ENI」のデスカルツィCEOも含まれた。メローニ首相は訪問中、ダバイバ国民統一政府(GNU)首相やメンフィー執行評議会(PC)議長と会談し、大統領・議会選挙の実施見通しや不法移民対策について協議したほか、復興開発プロジェクトを軸に経済協力を促進していく点を確認した。
翌29日、両首相の立ち合いの下、リビア国営石油会社(NOC)と伊ENIは、ガス開発に係る生産分与契約(EPSA)を締結した。契約額は80億ドル相当にのぼり、契約期間は25年に及ぶ。同契約では、ENIがリビア沖で2つのガス田の開発を手掛け、2026年より日量7.5億立法フィートのガスを生産する計画である。生産されたガスはリビア市場への供給に加え、ヨーロッパにも輸出される。
一方、イタリアとのガス開発契約を認めない声がリビア国内で上がっている。GNU閣僚であるアウン石油・ガス相は、今次契約の権益比率や投資出資率がENIに有利になっているとの不平等性や、契約内容が閣議及び石油・ガス省から事前承認を受けたものでないとの違法性を指摘し、反対の意を示した。また、東部拠点の代表議会(HOR)が政府承認する国民安定政府(GNS)のバーシャーガー首相も、GNUは政権任期の満了に伴い、政府としての正統性を欠くため、GNU締結の全ての協定を受け入れないと警告した。
こうした状況下、トリポリ西方にあるメリータ・ガス施設(リビアNOC・ENIの運営)が襲撃され、リビア・イタリア間を結ぶグリーンストリーム・ガスパイプラインが閉鎖に追い込まれた。メリータ石油ガス施設労働組合が犯行を主張し、封鎖解除の条件として、石油大学卒業生の雇用増加を要求している。
評価
メローニ政権はドラギ前政権と同様に、エネルギー面での脱ロシア依存を図るため、代替調達先としてリビアに期待を寄せている。ロシアによるウクライナ侵攻前(2021年時)、イタリアのガス輸入に占めるロシア産ガスの割合は40%であった一方、リビア産ガスはわずか4%に留まっていた。リビアでは紛争の長期化の影響でガス部門への投資誘致が進まず、生産量の大半は発電用燃料に消費され、輸出量を十分に確保できずにいた。このため、今般のイタリアとの大型契約は、ガス生産量を飛躍的に増加させる絶好の機会となる。
一方、紛争下における「1国2政府」がリビアのエネルギー開発の障壁となるだろう。特に、国際社会がリビア政府として認めるGNUに対する風当たりはリビア国内外で強くなっている。22日にトリポリで開催されたアラブ連盟会合には、GNUの正統性を否定するエジプトに加え、サウジやUAEの代表団も足並みを揃え、欠席した。今後もGNUへの退陣要求が相次ぐことが予想され、仮にGNUが退陣すれば、後継政府がGNU締結の協定を無効化する可能性があり得る。GNUとのエネルギー開発合意は今回のイタリアのみならず、昨年10月にトルコもエネルギー協力に係る覚書を調印したことから、この先、イタリアとトルコがGNUの政権存続に向けて更に支援していくと考えられる。
【参考】
「リビア:ロシア産ガスの代替調達先としてのリビア」『中東かわら版』2021年No.127。
「リビア・トルコ:エネルギー協力に係る覚書」『中東かわら版』2022年No.96。
「ウクライナ危機と北アフリカからのエネルギー供給の可能性 ――西サハラ問題とリビア紛争の影響――」『中東分析レポート』No.R22-10。※会員限定。
(研究員 高橋 雅英)
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