中東かわら版

№137 イラン:中部エスファハーンの軍事工場に対するドローン攻撃が発生

 2023年1月28日現地時間夜、中部エスファハーンにある軍事工場に対するドローン攻撃が発生した。翌29日、イラン国防・軍需省は声明を発出し、エスファハーンにある「集合工場施設」に対する攻撃は失敗に終わり、工場屋根部分に損傷はあったものの、いかなる人的被害も生じなかった、ドローン一機は防空システムにより破壊され、残りの二機は罠によって捉えられ爆発したと発表した。1月30日付『ファールス通信』(保守強硬系)は、実際に工場の衛生画像を映し出しつつ、同工場に如何なる損傷もないと主張した。

 今次事件について、1月29日付『ニューヨーク・タイムズ』紙はイスラエルの情報機関モサドが実行した、との匿名の米情報機関幹部による見方を伝えている。同日付『エルサレム・ポスト』紙も、匿名の西側情報筋によれば、エスファハーンに対するドローン攻撃は大成功だったと報じた。なお、現時点で、イスラエル軍・政府は関与を認めるコメントを出していない。

 

評価

 近年、イラン国内では、核関連施設の損傷、核科学者の暗殺、及び革命防衛隊ゴドス部隊幹部の暗殺等、イスラエルによる犯行と囁かれる事案が複数発生してきた(詳細は末尾【参考】を参照)。今次事件についての犯行声明は出されていないことから、犯行主体は不明である。また、同工場で具体的に何が製造されていたのかも明らかでなく、犯行目的も曖昧である。他方、過去の経緯を踏まえると、イラン国内では外国諜報機関員、あるいはその代理人が暗躍していると窺われることから、イランと敵対勢力との同様の暗闘は今も続いていると考えられる。

 現在、イランを巡る国際・地域情勢が厳しさを増す中、イラン・イスラエル間の小競り合いが偶発的な事故を招き、事態がエスカレートする危険性は排除されない。このため、今次事件を過小評価することは難しい。最近では、EUの仲介にもかかわらず核交渉は停滞し、イランのブレイクアウト・タイム(核兵器1個分の核燃料の製造にかかる期間)が著しく短縮されている。この状況に対し、イスラエルが危機感を募らせ何らかの抑制策を検討していることは想像に難くない。また、ロシア・ウクライナ戦争勃発以降、イラン製ドローンのロシア供与疑惑を受けて、欧米とイランとの軋轢も深まる一方だ。域内でも、シリア領内での「イランの民兵」に対するイスラエルの空爆等、緊張が継続している。イスラエルでは右派政権が成立してもおり、イランの孤立と合わせて考えても、将来生じ得る不測の事態への警戒を怠ってはならない。

 

【参考】

「イラン:革命防衛隊員・科学者らの相次ぐ不審死」『中東かわら版』2022年No.33。

「イラン:ファフリーザーデ核物理学者の暗殺」『中東かわら版』2020年No.109。

「イラン:ナタンズ核関連施設での「事故」の発生とその余波」『中東かわら版』2020年No.41。

(主任研究員 青木 健太)

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