中東かわら版

№135 アフガニスタン:ターリバーンによる女性の教育・就労への制限を受けて諸外国・機関による働きかけが活発化

 2022年12月にターリバーンが女性の教育・就労に対して大幅な制限を加えたことを受けて、諸外国・機関による働きかけが活発化している。

 ターリバーン高等教育相は12月20日、更なる通知があるまで、女子大学生が公私立の大学において教育を受けることは出来ないとの書簡を発出した(詳しくは「アフガニスタン:ターリバーンが女性の教育・就労を大幅に制限」『中東トピックス』T22-09参照)。また、同月24日、アフガニスタンにてNGO登録を所管するターリバーン経済省は、国内・国際NGOに対して、更なる通知があるまで、女性職員に就労させないよう通達する書簡を発出した。ターリバーンによる一連の決定を受けて、国連や西側諸国のみならず、イスラーム諸国やアズハル(カイロにあるモスク、ウラマー組織、大学等を包含するスンナ派学術・教育機関)からも深い憂慮や非難が表明された。

 こうした状況下、諸外国・機関がターリバーンに対し、女性の権利制限を解除するよう働きかけを強めており、その一部をまとめたものが下表である。

 

表 ターリバーンによる女性の教育・就労制限に対する諸外国・機関による主な働きかけ

 

月日

主体

主な内容

2022年

12月25日

国際NGOセーブ・ザ・チルドレン、ノルウェー難民委員会、国際レスキュー委員会、ケア・インターナショナル

女性職員がいなければ従来の援助活動を継続できないとしてアフガニスタンにおける活動停止を発表

※一方、いくつかのNGOは2023年1月中旬、ターリバーンから保健衛生分野に従事する女性職員の安全を保証されたとして一部業務を再開。

2023年

1月11日

イスラーム協力機構(OIC)

「アフガニスタンにおける最近の動きと人道状況」と題する特別会合をジェッダで開催、ターリバーンの措置に落胆の意を示し、女子学生の登校再開を認めること、及び、女性の権利を保障することを要求

 

1月17日~20日

アミナ・ムハンマド国連副事務総長(元ナイジェリア環境相;女性)率いる一団

ターリバーンのハナフィー副首相代行、モッタキー外相代行らとカーブルで会談、アフガニスタンの発展を第一に考えて女性の権利制限を撤回するよう要求

(出所)公開情報を元に筆者作成。なお、網羅的なものではない点に留意が要る。

 

 諸外国・機関からの働きかけを受けて、ターリバーンは累次反応を示している。例えば、2022年12月の国際NGOによる援助活動の停止発表(上表の①)後、ターリバーンは2023年1月中旬に、国際NGOが保健衛生分野に従事する女性NGO職員の雇用を継続しつつ活動を再開させることを認めた。また、OICの声明(上表の②)に対し、ターリバーンのムジャーヒド報道官は1月12日、OICの懸念について理解できるものの、イスラーム首長国(注:ターリバーンを指す)の今次措置は暫定的なものであり、然るべき環境が整えば問題は解決すると述べた。

 また、米国のデッカー臨時代理大使が2022年12月25日に、「アフガニスタンに対して人道支援をする国の代表としてターリバーンは女性と子ども達が飢餓に陥ることに説明責任があると感じる」とツイートし、女性NGO職員の勤務を停止したターリバーンを批判したが、ムジャーヒド報道官は翌26日、「アフガニスタンにおいて活動を希望するすべての組織は、我が国の規則に従う必要がある」と反応し、「米政府高官は我々の内政問題に干渉するべきでない」と警告した。また、1月18日、国連のアミナ・ムハンマド副事務総長と会談(上表の③)したターリバーンのモッタキー外相代行は、イスラーム首長国は大きな課題に直面していたが、現在は治安を回復し、学校を再開させ、ケシ栽培も撲滅したと主張し、それにもかかわらず諸外国はイスラーム首長国を政府承認せず、その構成員に渡航制限を科し、金融取引にも制裁を加えるなど、アフガニスタン人民に多大な苦しみを与えている、と国連を非難した。

 

評価

 ターリバーンは2021年8月に実権を再び掌握して以降、女子中等教育の制限(2022年3月)、女性が公園や公衆浴場に行くことの禁止(同年11月)、女子大学生の通学停止、及び、女性NGO職員の就労制限(ともに同年12月)等、女性の教育・就労・社会生活を著しく制限する措置を立て続けに講じてきた。こうした一連の流れをみる限り、ターリバーンは現代西洋社会で一般的に女性が保障される基本的権利を厳しく制約しており、これが諸外国から強い反発を招いている。当事者であるアフガニスタン女性らのなかにも、身の危険を顧みず、市中での抗議活動を行う者も多くおり、反発の動きは国内外に広がっている。

 ターリバーンは、こうした措置を講じる理由について、イスラームの観点から説明している。例えば、ナディーム高等教育相代行は女子大学生の通学を制限した理由として、女子学生によるヒジャーブ着用が徹底されていないこと、女子学生寮が存在していること、女性に相応しい科目の不在、等々を挙げている。ターリバーンは一貫して、女性の教育・就労それ自体に反対しているのではなく、適当な環境が整っていないために一時停止していると主張している。もっとも、ターリバーンはイスラームの教えへの抵触を免罪符として、女性を標的とした厳しい権利制限を行っているようにも映る。

 他方で、ターリバーンによる女性を巡る諸政策を考える上では、アフガニスタン社会が内包する特質を理解する必要がある。多民族国家であるアフガニスタン国民の特性を過度に一般化することは禁物である。しかし、同国地方部において、家父長制を基盤とする非常に保守的な男性優位社会が伝統的に築かれてきたことは確かである。女性は結婚できる年齢になれば、家父長が決めた家庭に嫁ぎ、出産、育児、家事を担うことを社会的に強く期待されてきた。また、部族社会では、部族や家庭の間で諍いが生じた際、賠償金の代わりに娘を与える因習も存在した(勝藤猛「パシュトゥン族の道徳と慣習」『アジア・アフリカ文献調査報告』第3冊、1964年、1-19頁)。ターリバーンが2021年12月に「女性の権利に関する『信徒たちの長』の特別法令」を発出し、「女性は財産でなく自由な意思を持つ尊い人間」であり、「如何なる者も和平取引の条件として女性を交換することはできない」とわざわざ説明した背景には、こうした因習が現在も一部地域に残っていることがある。ターリバーンの一連の措置を理解する上では、こうした社会的背景も考慮される必要があるだろう。加えて、アフガニスタンでは1973年の無血クーデタ以来、実に50年にも及ぶ政情不安と混乱が続いてきており、戦争の遺産が今なお色濃く残っている。これに起因して、若年世代の教育不足の問題も深刻である。総じて、ターリバーンの行動を理解する上では、宗教、文化、社会、慣習、歴史等、多岐にわたる要素を考慮しなくてはならない。

 なお、現代においては、伝統や因習に囚われず、男女平等な社会参画や子どもの教育に熱心家庭が特に都市部で増えており、社会のあり様が時代とともに変化している点には留意が要る。

 ターリバーンの行動をこのように説明できたとして、同組織が講じる諸措置を擁護できるわけでは決してない。仮に女性が高等教育を受けられなければ、女性医師は生まれない。そうなると、もしターリバーンが女性医師しか女性患者を診察することはできないと考えた場合、女性は治療を受ける術を失う。これはほんの一例だが、諸外国・機関としては、ターリバーンに対して諸措置が及ぼす広範な影響を丁寧に説明しつつ、地道に働きかける必要がある。

 一方で、ターリバーンのアーホンドザーダ指導者は外部の誰とも会わない姿勢を現在まで貫いており、諸外国・機関からの働きかけが「暖簾に腕押し」になっている点は大きな問題だ。今後、適切なルートを通じた働きかけが重要だ。同時に、ターリバーンはアフガニスタンが経済危機に陥る原因を、諸外国の側に求める主張を繰り返している。また、同国地方部では「女性の尊厳は男性の名誉」との考え方も根付いている。これらを踏まえて、諸外国としては内政干渉と受け止められない説明をしつつ、粘り強い交渉を通じて妥協点を探り当てることが効果的だ。

 

【参考】

「アフガニスタン:女性の権利に関する「信徒たちの長」特別法令が発出」『中東トピックス』T21-09。※会員限定。

「アフガニスタン:アフガン暦新年を迎えるも、ターリバーンが女子教育再開を撤回」『中東かわら版』2021年No.129。

「アフガニスタン:ターリバーンがヒジャーブ着用を義務化」『中東かわら版』2022年No.15。

「アフガニスタン:ターリバーンが女性の教育・就労を大幅に制限」『中東トピックス』T22-09。※会員限定。

(主任研究員 青木 健太)

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