中東かわら版

№131 アルジェリア・モロッコ:フランスによる査証発給制限の撤廃

 2022年12月16日、フランスのコロナ外相は訪問先のモロッコで、両国間の領事関係の改善を発表し、モロッコ人に対するフランス査証発給の制限措置を撤廃する方針を表明した。また、フランスのダルマナン内相もアルジェリアを訪問中、アルジェリア人への査証発給数を12日より正常化させたことを明らかにした。

 フランスは2021年9月、非正規滞在者の本国送還をめぐる対立から、アルジェリア及びモロッコへの査証発給数を2020年比で半減、チュニジアにも30%減少させる措置を課した。同制限により、フランスとマグリブ各国との関係は著しく悪化した。その後、チュニジアがフランスとの不法移民対策に協力する姿勢を示したことを受け、フランスは2022年9月よりチュニジア人向け査証発給数を増加させた。

  

評価 

 フランスは、アルジェリア・チュニジア・モロッコにとって最大の移住先であり、在フランス・出稼ぎ労働者による母国への送金は、各国の地域経済を支える重要な収入源である。移住の背景には主に経済的動機があり、多くのマグリブ出身者が自国の経済に不満を抱く中、フランスへの移住を希望した。このため、マグリブ各国政府は、フランスの査証制限により、経済的な不満を募らせる移民希望者が国内に居残り、政情不安につながるような行動を起こすことを懸念している。

 フランスが査証制限を撤廃した理由について、現時点でアルジェリアとモロッコが非正規滞在者の本国送還に応じたかは明らかでない。しかし、フランスが関係改善に向けて、アルジェリアとモロッコに譲歩した可能性がある。8月にマクロン大統領がアルジェリアを訪問し、エネルギー面やサヘル地域の問題などで二国間関係の強化を望む立場を明確に示した。また、マクロン大統領は2023年初めにモロッコへの訪問を予定しており、パートナーシップ関係の強化を目指している。近年モロッコは、2020年12月に関係正常化したイスラエルと経済・軍事面での結びつきを強め、フランス依存体制の転換を図っていることから、フランスとしては、査証制限の撤廃と大統領のモロッコ訪問を契機に、モロッコとの同盟関係を再構築する狙いがあると考えられる。

(研究員 高橋 雅英)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP