中東かわら版

№125 イラン:抗議デモの継続と「指導巡視隊」の活動休止をめぐる動き

 2022年12月3日、モンタゼリー検事総長が、「指導巡視隊」(注:「道徳警察」、「風紀警察」とも表記される)の活動休止に言及したと国内外メディアが報じた。同検事総長は「最近の暴動におけるハイブリッド戦争の諸側面に関する説明」と題する集会において、「「指導巡視隊」は司法府と関係を有さず、これまでに同組織を設立したのと同じ部局がこれを活動休止にした」と発言した。同時に、同検事総長は「もちろん、司法府は社会行動の監視を続ける」とも述べた。

 その一方で、イラン国内では、ストライキや行進を含む大規模な抗議行動が12月5~7日の3日間予定されている。12月7日は「学生の日」に当たり、ライーシー大統領は学生向けに演説する予定である。

 

評価

 モンタゼリー検事総長の発言だけをもって、「指導巡視隊」が廃止されたと考えるのは早計のように思われる。同隊は、女性の服装を含め、イスラームに則り社会活動が営まれているかを監督し風紀粛正に当たる、内務省傘下にある治安維持軍(警察)の一組織である。憲法162条に基づき、司法府長によって任命される検事総長は、「指導巡視隊」に対して指揮命令権を有さない。今次の問題について、治安維持軍は何ら見解を示していない。また、同検事総長は、ヒジャーブ強制着用に関する法律の改正についても別途言及したが、法律改正が完了したとも確認されていない。このため、然るべき政府組織から公式の声明や見解が出るのを待つべきだろう。

 こうした中で注目されるのは、12月5日から3日間、イラン各地で大規模な抗議デモが計画されていることである。このタイミングを考慮するならば、体制側がいわば観測気球を上げることで、一般国民の反応を様子見している可能性は否定できない。また、2019年ガソリン値上げデモの時に比して、今次のデモでは、徹底的なインターネット遮断と暴力的な弾圧への戸惑いのようなものが透けてみえる。これらから、体制側が民心が離れてゆくことを警戒し、厳格な対応を躊躇している様子がうかがえる。

 より詳しい実態は今後明らかになると見られるが、「イスラーム法学者による統治論」の下、イスラームに基づく国家体制を標榜する現体制が、将来、ヒジャーブ強制着用に関する規則を緩めるとは俄かに考えにくい。体制の権力基盤(宗教界、革命防衛隊など)から「弱腰」と見られる対応を講じることは、危機を招くことになる。仮に「指導巡視隊」の活動が休止したとしても、形を変えて服装の監視が続く可能性は残る。一方のデモ参加者の多くは、ヒジャーブという服装を問題視しているというよりかは、政治制度内において自由意志を表明する空間を奪われたことで、政治制度外での意思表示として抗議行動を選択している。不満が燻り続けている状況下、現時点で、抗議デモの終息を見通すことは難しいといわざるをえない。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「イラン:ヒジャーブ着用取締りによる女性の死亡をめぐり各地で抗議デモが発生」2022年度No.88(2022年9月21日)

・「イラン:ヒジャーブ着用取締りによる女性の死亡をめぐり各地で抗議デモが発生#2」2022年度No.90(2022年9月28日)

・「イラン:ハーメネイー最高指導者が抗議デモについて初めて言及」2022年度No.95(2022年10月4日)

・「イラン:長期化する抗議デモ」2022年度No.109(2022年10月28日)

(研究員 青木 健太)

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