中東かわら版

№123 イスラエル:エルサレムのバス停で2回の爆発事件

 2022年11月23日朝7時(現地時間)、エルサレムのラモット地区のバス停で爆発があり、16歳の学生1人が死亡、18人が負傷した。その30分後、ギヴアト・シャウル地区のバス停で再び爆発があり、5人が負傷した。警察は、バス停付近の草むらに仕掛けられた遠隔操作の爆弾が爆発したとみている。爆弾には多数の釘が仕込まれ、被害を無差別に最大化する仕掛けとなっていた。イスラエル当局はテロ事件として捜査している。

 

評価

 イスラエル国内では、一般市民を標的としたテロ事件は久しく発生していなかった。最後にイスラエル国内でそのような事件が頻発した時期は2000年代初頭の第2次インティファーダの頃で、当時は複数の都市でバス停などを狙った爆破テロ(自爆を含む)が起きていた。

 今回の事件は、エルサレムで長らく続くローンウルフ型の犯行ではなく、組織的な犯行の可能性がある。エルサレムでは、数年前からパレスチナ人がイスラエルの民間人や警官を刃物で刺す事件が頻発しているが、これらはイスラエルの占領を憎悪するパレスチナ人による単独の犯行である。しかし、今回の事件では釘入り爆弾の使用や爆弾の遠隔操作が確認され、これらは無差別攻撃を行うテロ組織の常套手段である。また、イスラエル警察の監視の目をすり抜けてバス停に爆弾を設置するためには、複数人の協力が必要となる。

 では、イスラエル国内でなぜ今テロ事件が発生したのか。その背景には、今夏からヨルダン川西岸地区の主要都市で続くイスラエル軍と武装勢力の暴力の応酬が関係しているだろう。ジェニン市、ナブルス市などで武装勢力がイスラエル軍を攻撃する事件が増加し、これに対して軍は武装勢力の拠点を襲撃し、そのたびにパレスチナ側に死者が出ている。国連によると、2022年にイスラエルとパレスチナの衝突によって西岸及び東エルサレムで死亡したパレスチナ人は125人で、9月だけで32人が死亡、311人が負傷した。ウェネスランド国連中東和平問題特使は、2022年は西岸のパレスチナ人の犠牲者数が最多となる恐れがあると述べている。

 イスラエル軍・警察は、西岸主要都市の武装勢力拠点に対する掃討作戦をさらに強化するだろう。それに伴い、必然的にパレスチナ側に犠牲者が出るため、今後も西岸とエルサレムにおける暴力の応酬は続くと予想される。

 

【参考情報】

 *関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「パレスチナ:西岸地区で増加する暴力、新たな武装組織の活動」2022年度No.107(2022年10月25日)

(上席研究員 金谷 美紗)

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