中東かわら版

№121 カタル:中東初開催となるW杯の開幕とその意味

 2022年11月20日、カタルで中東初開催となるサッカー・W杯が開幕した。昨年のドバイ万博につぐ湾岸地域での世界的イベント開催の事例となり、湾岸諸国がこうしたイベントのホスト国を務めることは今後のトレンドの一つとなると予想される。

 一方、W杯開催をめぐって海外、とりわけ欧州諸国によるカタル批判が目立っているのは周知の通りである。2010年の開催国決定時より、カタルに対しては「金でホスト国の地位を得た」との風評が立っていたが、W杯開催が近づくにつれ、カタル国内での外国人労働者や性的マイノリティへの差別等、批判の争点が種々の人権問題へと移った。カタル側はこうした批判に関し、虚偽やダブル・スタンダードで、むしろ欧州側によるカタルないし中東諸国への差別だと反論している。

 

評価

 欧州では英国、フランス、ドイツで今期W杯を非難する動きが出ており、大規模なデモ等は確認できないものの、飲食店での試合放映の取り止めや、自国政府からカタルへの特使派遣の中止を求める呼びかけ等が見られる。一方、こうしたカタル批判については、フランスの週刊紙『ル・カナール・アンシェネ』が、「カタル」と書かれたユニフォームを着て銃を持った人々(一部は目出し帽をかぶり、全身黒づくめ)がボールを追う、つまりカタル、サッカー、テロを掛け合わせた風刺画を掲載する等、確かにカタルがいうような逆差別、ダブル・スタンダードととれる側面がある。W杯に限った応酬だけを見て、一方を善と、他方を悪といったような、きれいな区別ができるわけではない。

 中東諸国、とりわけ近隣の湾岸諸国は、こうした欧州のカタル批判を静観するか、あるいはカタルのW杯開催を支持する意向を表明している。この理由は、カタルが示唆するように、欧州の批判が中東諸国(ないしイスラーム諸国)への差別をはらんでいるからというより、むしろ将来的に自国が類似の国際イベントを招致する際の布石として、であろう。この筆頭が、カタル支持を表明したサウジである。サウジは2030年の万博開催に立候補中で、同年のW杯への共催での立候補も噂されている。これらを考えれば、サウジにとってカタルのW杯開催は、自国での世界的イベント開催に向けた試金石との意味合いが強いと考えられる。

 

【参考】

高尾賢一郎「国際イベント招致に見る内外のポリティクス ――「有終の美」を見据えるサウジ・ビジョン2030――」『中東分析レポート』No.R22-11 ※会員限定

(研究員 高尾 賢一郎)

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