中東かわら版

№120 エジプト:COP27閉幕、「シャルム・シェイフ実行計画」の採択

 2022年11月20日、シャルム・シェイフで行われていた第27回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP27)が閉幕し、参加国は「シャルム・シェイフ実行計画」を採択した。COP27では、議長国のエジプトが、気候変動による経済的被害を参加国が協力して補償する仕組み「損失と被害」(Loss and Damage)を議題に上げることに初めて成功した。しかし、EU以外の先進国や産油国が資金拠出に消極的であったり化石燃料の重要性を強調したため、合意形成が難航し、会議期間を2日間延長していた。最終的には、米国や日本も「損失と被害」基金への拠出に同意した。拠出方法の詳しいメカニズムは、2023年、UAEで行われるCOP28で話し合われる。

 

【シャルム・シェイフ実行計画要旨】

  • 全ての参加国は、低排出エネルギー(low emission energy)や再生可能エネルギーの増加、公正なエネルギー転換パートナーシップなどを通じて、あらゆる部門で即時かつ持続的に温室効果ガスを削減する必要がある。
  • 地球温暖化を1.5度に抑えるためには、温室効果ガスを2030年までに43%削減する(2019年比)必要がある。そのためには、今後10年間で行動を加速しなければならない。
  • 参加国には、低排出エネルギーへの転換、クリーン発電の展開、エネルギー効率手続きの急速な拡大、未対策の石炭発電の段階的削減、非効率な化石燃料補助金の段階的削減を求める。
  • 気候変動関連の損失と被害があらゆる地域で頻繁に発生し、その範囲が拡大していることに懸念を共有する。途上国が受けた損失と被害の財政的コストは膨大である。初めて、気候変動の影響にかかわる損失と被害に対応するための基金が検討されたことを歓迎する。
  • 2050年までに排出量ゼロを達成するには、2030年までに再生可能エネルギーに4兆ドルを投資しなければならない。また、世界が低炭素経済に移行するためには、少なくとも年間4~6兆ドルの投資が必要である。
  • 先進国に対し、気候変動の被害緩和のために2020年までに毎年1000億ドルを拠出するという目標を達成するよう求める。2019~2020年における先進国から途上国への財政支援は8030億ドルで、必要投資額の31~32%だった。

 

 評価

 COP27の議長国を務めたエジプトは、気候変動の影響を受ける途上国、そしてアフリカの代表として、開幕前から「損失と被害」を補償する多国間協力枠組みの合意形成に意欲を示していた。気候変動の経済的・非経済的被害を補償する仕組みは、長年、途上国がうったえてきた議題であったため、COP27で合意に漕ぎ着けられたことは議長国エジプトの功績といえる。折しも、COP27は世界がロシアのウクライナ侵攻によってエネルギー危機に晒され、化石燃料の需要が緊急で高まっている時期に開催された。この世界情勢において「損失と被害」基金の設立で合意に至ったことは評価されるべきである。

 ただし、肝心の拠出方法の議論は来年のCOP28に投げられたため、画期的といわれる「損失と被害」の仕組みが現実化するまでに、先進国と途上国は難しい議論を続けていかなければならない。また、COP28開催国のUAEが、産油国として化石燃料収入の確保という国益を守りつつ、低炭素エネルギー経済への転換をどのように主導できるのか注目される。

 「シャルム・シェイフ実行計画」は、温室効果ガスの削減を参加国に緊急で要請しつつも、抜け道が存在する。温室効果ガスを削減する方法として推奨された「低排出エネルギー」は、石炭火力より二酸化炭素排出量の少ない天然ガスを含むとも解釈できる。したがって、天然ガスによる発電をよりエコな発電方法として採用することが多くなる可能性があり、その場合、温室効果ガス削減と1.5度目標の達成は遠のいてしまうだろう。

(上席研究員 金谷 美紗)

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