中東かわら版

№119 イラン:国際原子力機関(IAEA)が非難決議を採択

 2022年11月17日、国際原子力機関(IAEA)理事会は、イランを非難する決議を賛成多数で採択した。投票内訳は、35カ国の内、賛成26票、棄権5票、欠席2票、反対2票(ロシア、中国)だった。同決議は、イランに対し、以下4点について遅滞なく対応を講じることを要求している。

 

  • 未申告のサイト3カ所で見つかった人為的なウラン粒子の存在について、技術的に信頼に足る説明を提供すること
  • 核物質、及び、汚染された装置の現在の位置を、IAEAに通報すること
  • IAEAがこの目的のために求める全ての情報、文書、及び、回答を提供すること
  • IAEAがこの目的のために、並びに、IAEAが適切と判断しサンプルを採取する場合に、サイトと物質へのアクセスを認めること

 

 同決議について、イラン側は厳しい立場と反応を見せている、前日の16日、エスラーミー原子力庁長官は、イランはIAEAの要求に対して善意を持って理性的に対応してきていると述べ、IAEAによるイラン訪問の計画は当面アジェンダにのぼらない、と牽制した。イランのウィーン常駐代表部は17日、今次の措置はイランとIAEAとの今後の協力関係に影響を与える可能性がある、これはイランに対する制裁の正当化を意図したものだと批判した。

 

評価

 本年6月にIAEAが対イラン非難決議を採択(詳細は『中東かわら版』No.30を参照)した際、イラン原子力庁は対抗措置として核施設に設置した監視カメラ2基を停止しており、両者の対立は深まっていた。それ以降、本年9月にはエスラーミー原子力庁長官とグロッシIAEA事務局長が会談するなど、技術的協議が続けられてきた。こうした中、米・英・独・仏がドラフトした対イラン非難決議が、今般、理事会で採択されたことを受けて、イランからしてみると、協議が継続する中で今次のような行動を取る必要は全くないとの受け止めになるだろう。イラン側は、IAEAは国際機関にもかかわらず、欧米寄りの政治的に偏向した対応を取っていると捉えているものと考えられる。

 他方、IAEA側は長期にわたり、イラン国内に未申告の放射性物質があることへの懸念を示し続けてきており、イラン側の説明をそのまま受け止めることはできない。本年9月初旬、EU仲介による核合意再建に向けた交渉が大詰めを向けていた中、イランは未申告サイトで見つかった人為的なウラン粒子をめぐる検証を問題化しないよう要求してもいた。つまり、イランは、いわばIAEAが同問題を「不問に付す」ことを、核合意再建の条件にしていた。かかる状況下、イラン・米国双方が核合意再建を見据えるのであれば、本件をめぐる論争に決着をつける必要がある。

 仮に論争が長引くようであれば、核合意再建に向けた交渉は停滞を余儀なくされることが予想される。中露への対応で手一杯の米国ではイラン問題への対応が後回しとされている様相を呈しており、イスラエル国政選挙で右派政党が躍進(11月)してもいる。イラン国内に目を転じても、反体制デモが終息する気配は見られず、体制側による暴力的な弾圧が伝えられる。内憂外患と呼べる状況下、今次の決議を経て、欧米・IAEAとイランとの間の溝が更に深まることが懸念される。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「イラン:IAEA非難決議の採択とイランの反応」2022年度No.30(2022年6月9日)

(研究員 青木 健太)

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