中東かわら版

№118 アフガニスタン:ロシアが国際会議を主催、ターリバーンは招待されず

 2022年11月16日、ロシアは、4回目となる「アフガニスタンに関するモスクワ会合」を主催した。同会合には、ロシア、中国、パキスタン、イラン、インド、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの10カ国の特使が参加し、カタル、UAE、サウジ、及び、トルコの代表者もオブザーバー参加した。米国代表団の参加はなかった。

 共同声明によると、参加者らは、テロと違法薬物の取引を根絶することをアフガニスタンに要求した他、首都カーブルの教育センターで発生したテロ事件(9月30日)、及び、ロシア大使館に対する襲撃事件(9月5日)を明示的に挙げて、民間人らを標的とするテロ攻撃を強く非難した(詳細は『中東かわら版』No.81を参照)。また、参加者らは、アフガニスタンに第三国による軍事施設が設置されることは受け入れ難いこと、並びに、同国における主要な民族・政治集団が参画する包摂的な政府の成立が重要であることを強調した。この他、共同声明では、米国にアフガニスタン在外資産の凍結を解除することを求める文言などが盛り込まれた。

 今次会合に、ターリバーンからの代表者は不参加だった。この点に関し、ロシアのカブロフ特使は、ターリバーンが「全ての政治・民族集団を包摂した政府」を作るとの約束を反故にしたことが理由だと発言した。ターリバーン外務省は17日、地域諸国によるアフガニスタンの平和、独立、経済的発展に向けた努力を歓迎する一方で、「アフガニスタン政府」(注:ターリバーン)の代表者が含まれていれば、より包括的且つ効果的だっただろうとの声明を発出した。

 

評価

 前回会合は、カーブル陥落後間もない2021年10月20日に行われており、ロシアはその際、ターリバーンを「事実上の権力」として扱うことで同派の政治的認知の向上に寄与していた(詳細は、『中東かわら版』2021年度No.72を参照)。その後、イラン、パキスタン、インド、イスラーム協力機構(OIC)、中国などが2021年末~2022年初頭にかけてアフガニスタンに関する国際会議を主催したものの、最近では同国に関する国際会議の開催はほとんど見られなかった。アフガニスタンへの関心が低下する中、今次会合を通じ、ロシアはアフガニスタンの復興を引き続き主導する立場を明確にした。

 議論の内容に目を向けると、包摂的な政権の成立、テロ・麻薬対策、人道危機への対応など、これまでと大きな変化は見られない。アフガニスタンが多民族国家であるにもかかわらず、最大民族パシュトゥーン人以外の民族、並びに、イスラーム共和国政権時代の政治有力者を依然として権力から排除している現実を反映しているといえる。また、名指しこそしていないものの、ロシア大使館襲撃事件は、「イスラーム国ホラーサーン州」が実行を主張したものであった。この点は、ロシアを含む参加国が、同組織の投げかける脅威を警戒していることを示すとともに、ロシアがアフガニスタン問題を重視する背景でもあろう。

 その一方で、今次会合にターリバーン代表団の招待されなかった点は、前述のようなロシア・ターリバーン関係を踏まえると若干奇異にも映る。ロシアは、ターリバーンと燃料・食料取引にも暫定合意(詳細は『中東トピックス』T22-06を参照)するなど、ターリバーンを政治・経済の両面で支援してきている。ロシアとしては、自らの要求に真剣に耳を傾けないターリバーンに対し、今後の行動を改めさせようとの「罰則」の意味で招待しなかった可能性はある。孤立化するターリバーンにとっては、ロシアは重要な後ろ盾であり、その要求を無視できない。ターリバーンは今、メッセージを受け取め、他勢力に権力分与をするか否かを試されているといえる。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「アフガニスタン:モスクワ会合参加諸国がターリバーンに「包摂的」政権成立を要求」2021年度No.72(2021年10月21日)

・「アフガニスタン:ロシア大使館職員2名を含む複数名が死傷する治安事件が発生」2022年度No.81(2022年9月6日)

 

<中東トピックス>【会員限定】

・「アフガニスタン:ターリバーンとロシアが燃料・食料取引に暫定合意」T22-06(2022年10月5日)

(研究員 青木 健太)

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