中東かわら版

№116 トルコ:イスタンブル繁華街での爆発で多数の死傷者

 

 2022年11月13日16時20分(現地時間)、イスタンブル中心部のベイヨール地区イスティクラル通りで爆発事件が発生した。これにより、3歳の女児と父親を含む6名が死亡、81名が負傷(うち2名は重体)した。死亡した6名は全員トルコ人だった。当局は、テロ事件として捜査を開始、爆発直前の16時13分、ベンチにバッグを残して走り去る不審な女の姿が防犯カメラに映っていたことから容疑者と断定し、その映像を公開した。

 同日、エルドアン大統領は、インドネシアへ出発する直前の記者会見で、当局による捜査が行われている最中だとしながらも、自身が得ている情報の限りにおいて、テロの可能性が高いと述べ、実行犯とその背後にいる組織の摘発に向けて努力すると語った。

 11月14日、ソイル内相は、当局による捜査の結果、実行犯の女と協力者を拘束したと発表した。また、今回の事件はテロであり、クルディスタン労働者党(PKK)及びシリアの関連組織クルド人民防衛隊(PYD)によるものだとしたうえで、PYDを支援する米国を強く非難した。

 その後の取り調べで、逮捕された女は、シリア国籍のA.A.(イニシャルのみ公開)、23歳で、シリアのアフリーン経由でトルコに入国していたことが明らかとなった。

 

評価 

 

 治安当局は、事件発生直後からテロの可能性を視野に一斉捜査を開始し、付近に設置された1200台の防犯カメラ映像を元に実行犯とみられる女の足取りを特定した。潜伏先を突き止め、治安部隊が容疑者を拘束する瞬間の映像を配信する等、凄惨な事件に対する当局の迅速な対応振りをアピールした。また、爆発の瞬間からその後に至るまでの状況を、多数の市民が目撃し、携帯電話等で撮影していたことも早期の犯人逮捕に貢献したと考えられる。

  他方、事件発生以降、SNS上には、血まみれの遺体や負傷した人々を撮影した動画及び事件に関する様々なコメントの投稿が殺到した。当局はこうした状況を受け、関連サイトへのアクセスの遮断、SNSの一時停止等の措置を講じた。当局が停止措置を実施した背景には、真偽不確かな情報の流布や凄惨な動画や画像の投稿もさることながら、トルコへのマイナス・イメージの拡大に対する懸念があると思われる。今般の事件は、新型コロナウイルスによる打撃を受けた観光業が回復基調にある矢先に発生した。無差別テロで、一般市民に多数の犠牲が出たことはトルコの経済にも影響を及ぼしかねない。爆発が発生したイスティクラル通りは、イスタンブルで最も有名な場所の一つで、観光客も多数訪れる地域である。テロや治安悪化のマイナス・イメージにより、再び観光客が減少すれば、エルドアン政権の支持率低下に繫がる恐れもある。当局によるインターネットの規制措置は、治安強化と経済の両面の影響を回避する狙いがあったと推察できる。

 イスティクラル通りで一般市民を狙った攻撃は、2016年3月19日にも発生している。同事件は「イスラーム国」が犯行声明を出し、自爆攻撃犯を含む5名が死亡、外国人観光客4名を含む36名が負傷した。こうした経緯もあり、当局は当初、今回の事件についても、PKK、「イスラーム国」双方の可能性を視野に入れていたとみられる。だが、内務省は、捜査の初期段階で今次犯行がPKKによるものと断定した。ソイル内相は声明で、犯行グループらがギリシャに逃亡寸前だったこと、PKKとの繋がりを隠蔽するため、実行犯を殺害するよう指示が出ていたことを明らかにした。実行犯にシリア人の女を選んだのも、警戒されづらく、イスラーム過激派の犯行に見せかけようとするPKK側の工作だったのかもしれない。A.A.は拘束時に怯えた表情を見せる等、素人っぽさが見受けられる。PKK戦闘員として高度に訓練されたというよりは、「使い捨ての駒」としてシリアでリクルートされた可能性が考えられる。

 今次事件の発生で、トルコがPKK/PYDへの報復措置を強化することは必至で、シリア、イラクへの攻撃は激化するものとみられる。また、ソイル内相がPYD支援を継続する米国を名指しで批判し、米国からの弔意は受けないと発言したことで、上向きつつあった対米関係の悪化も懸念される。

  

(研究員 金子 真夕)

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