中東かわら版

№115 エジプト:COP27開催中に人権問題が浮上

 シャルム・シェイフで11月6日から第27回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP27)が始まった中、エジプトの人権問題が国際的な注目を集めている。著名な人権活動家で、「虚偽情報の流布」の罪で2021年12月から刑務所で服役中のアラー・アブドゥルファッターフ氏が、COP27開催に合わせて、6カ月前から続ける食事拒否のハンストに加えて水を飲むことも拒否しはじめた。また、同氏の妹で同じく人権活動家のサナー・サイフ氏がCOP27会場を訪れ、アブドゥルファッターフ氏の釈放を国内外メディアの前で主張した。その場に居合わせた国会の親政府派議員が「サイフ氏はエジプトを攻撃するためにやってきた」などと非難すると、会場の国連セキュリティ要員が同議員を強制的に退場させた。

 欧米メディアや中東の一部メディアは、この出来事をエジプトにおける人権弾圧を象徴するものとして報道し、COP27前に約100人が政府批判を理由に逮捕されたことも合わせて報道した。トゥルク国連人権高等弁務官は、アブドゥルファッターフ氏の健康状態の悪化を懸念して即時釈放をエジプト当局に求めた。米国のサリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官も同氏の釈放を求めるコメントを出し、米国とエジプトがハイレベルでこの件を協議しており、今週中にバイデン大統領とシーシー大統領が会談すると述べた。

 他方、エジプトの国会では、国連セキュリティ要員の行動を「非文明的な行動」と批判する声が上がり、第一党の国民未来党は、COP27を利用してエジプトの人権問題を政治化することに反対した。

 

評価

 アラー・アブドゥルファッターフ氏はムバーラク政権期から活動する人権活動家で、数度の逮捕歴があり、最近では、2019年9月の反政府抗議デモ後に「虚偽情報の流布」や「テロ組織への加入」の罪で逮捕され、禁錮5年を言い渡された。同氏の弁護人は、同じくベテラン人権活動家・弁護士のハーリド・アリー氏(2018年大統領選挙出馬表明、後に辞退)である。また、妹のサナー・サイフ氏も欧米メディアを中心に頻繁にエジプトの人権問題を批判してきた。最近、エジプト政府は国内の人権問題を改善するという名目で積極的に恩赦を進めているが、その中でもアブドゥルファッターフ氏は恩赦対象になっていない。つまり、エジプト政府にとって、アブドゥルファッターフ氏はかなりの程度の政治的な脅威であることを意味する。

 同氏をめぐる騒動がCOP27の最終結果に影響を与えることはない。しかし、今回の出来事を通じて、エジプトと欧米諸国との外交関係には今後も人権問題が付きまとうことになるだろう。これは、COP27を通じて気候変動分野での議論を主導し、ひいては自国の外交的成果につなげたいエジプトにとっては痛手となる。しかし、現下、欧米諸国の外交上のプライオリティはロシアにあるため、エジプトに対して人権問題を理由に強力な圧力をかける可能性は低い。ロシアとの関係が強いエジプトを西側に引き留めるためにも、エジプトとの関係を人権問題を理由に悪化させはしないと考えられる。

(上席研究員 金谷 美紗)

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