中東かわら版

№113 バハレーン:ローマ教皇による初のバハレーン訪問

 2022年11月3日、ローマ教皇フランシスコが、教皇初となるバハレーン訪問を果たした。同教皇の湾岸諸国訪問は2019年のアブダビ訪問に続いて二度目となり(中東訪問歴は時系列でヨルダン、パレスチナ、エジプト、UAE、モロッコ、イラク、バハレーン)、今般は3~4日にマナーマで開催された国際会議「バハレーン対話フォーラム:人類共存のための東西」にあわせたものである。会議にはエジプト・アズハル機構のアフマド・タイイブ総長を筆頭に、カタルに本部を置く国際ムスリム学者連盟のメンバー、またカトリックや東方正教会の聖職者らが出席した。主催者であるハマド国王は、湾岸諸国で最古のカトリック教会(1939年創建)及びコミュニティの存在を背景に、バハレーンが寛容、穏健、共存の旗振り役を務めていることをアピールした。

 

評価

 バハレーンで生活するカトリック信徒の多くはフィリピン人やインド人、すなわち移住労働者を中心とする。ムスリム・マジョリティ社会における異教徒である彼らを、単なる労働力ではなく、社会の宗教的多様性、ひいてはそれを実現している社会の寛容さを裏づける要素としてアピールする向きは、近年の湾岸諸国におけるトレンドといってよい。とりわけバハレーンとUAEはその流れを積極的に進めており、それが2019年と今回のローマ教皇受入という事績につながったことが分かる。ローマ教皇訪問や、各聖職者を集めての会議が、地域の安定や世界の人道状況に対して直ちに何かしらの影響を与える可能性は低いものの、ひとまずは宗教的多様性に基づいた寛容を、二国がソフトパワーとして活用している様子がよく分かる。

 ところで、バハレーンとUAEはアブラハム合意の参加国という点でも共通している。バハレーンはGCCで最古となるユダヤ教徒コミュニティ、及びGCC唯一のシナゴーグを擁し、UAEにはGCC最大となるユダヤ教徒コミュニティ(1000人超)が存在する。アブラハム合意以降、両国は彼らの存在を経済政策やイスラエル及び米国との関係強化のための窓口としても活用してきた。これは、同じGCCでもサウジアラビアには難しい政策スタイルであり、二国の目指している社会像や外交戦略を反映したものといえる。

 

【参考】

高尾賢一郎「アブラハム合意後のアラブ諸国・イスラエル関係と湾岸ユダヤ協会(AGJC)」『中東分析レポート』R22-01、2022年4月。※会員限定、要ログイン

(研究員 高尾 賢一郎)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP