№112 イスラエル:第25回国会(クネセト)選挙の結果
2022年11月1日、第25回イスラエル国会(クネセト)の選挙が全国1区の比例代表制で実施され、野党のリクードが32議席を獲得して第一党となった。リクードとの連立を既に公言している宗教シオニズム、シャス、統一トーラー・ユダヤ連合の議席数を合わせると過半数以上の64となるため、今後はリクード党首のネタニヤフ元首相が大統領から組閣を委任されると思われる。これに対して現連立与党の議席数は47となり、ラピード首相はネタニヤフ元首相を祝福するメッセージを出し、選挙での敗北を認めた。以下は、選挙結果の概要である。
有権者数 |
6,788,804 |
総投票数 |
4,793,641 |
有効票数 |
4,763,694 |
無効票数 |
29,947 |
投票率 |
70.61% |
阻止条項 |
3.25% |
政党/選挙連合名 |
議席数 |
|
リクード (ベンヤミン・ネタニヤフ元首相) |
右派 |
32(+2) |
イェシュ・アティド (ヤイル・ラピード首相) |
中道 |
24(+7) |
宗教シオニズム 宗教シオニズム党(ベザレル・スモトリッチ) ユダヤの力党(イタマル・ベン・グヴィル) |
宗教右派、極右 |
14(+8) |
国民連合 青と白(べンヤミン・ガンツ国防相) 新しい希望党(ギデオン・サアル法相) アイゼンコット元参謀総長 |
中道右派 |
12(-2) |
シャス党 |
ユダヤ教超正統派 |
11(+2) |
統一トーラー・ユダヤ連合 アグダト・イスラエル党 デゲル・ハトーラー党 |
ユダヤ教超正統派 |
7(±0) |
イスラエル・ベイテヌ党 (アヴィグドル・リーベルマン財務相) |
右派 |
6(-1) |
ラアム党 |
アラブ系、左派 |
5(+1) |
ハダシュ-タアル ハダシュ党 タアル党 |
アラブ系、左派 |
5(±0) |
労働党 |
左派 |
4(-3) |
(出所)中央選挙委員会、各種報道から作成。
評価
今回の選挙結果は、事前の世論調査で予想されていた通りのリクード連合の勝利であった。基本法によれば、選挙結果の発表から7日以内に大統領が諸政党との協議を経て国会議員1名に組閣を委任する。リクードとの連立を公言している政党・政党連合の議席数は過半数を明らかに超えているため、ネタニヤフ元首相が組閣を始めることは確実と思われる。
選挙結果の特徴は、右派のさらなる躍進と、左派のさらなる凋落である。古参の左派政党であるメレツは、阻止条項対策として労働党との同一名簿での参加を検討したが、最終的に拒否し、結果として阻止条項以下の得票率で議席を失った。これに対して、リクードは2議席増の32議席、宗教右派かつ極右の宗教シオニズムは8議席増の14議席となった。
1993年のオスロ合意以降、パレスチナとの暴力が日常化するに従い、イスラエル政治では和平反対の右派が躍進し、和平推進派の左派の凋落傾向が続いている。特に、ヨルダン川西岸での入植地建設を宗教的義務と考える宗教右派の台頭は顕著で、今次選挙では政党連合・宗教シオニズムが第3党に躍進した。同連合を形成する宗教シオニズム党のスモトリッチ党首やユダヤの力党のベン・グヴィル党首はネタニヤフ政権下で存在感を増し、イスラエル国内のアラブ人や占領地のパレスチナ人に対するヘイト発言を繰り返したり、東エルサレムでパレスチナ人との衝突に関わってきたりした。ベン・グヴィル党首は、極右の人種主義者メイル・カハネ(1990年暗殺)への支持を公言しており、ヘブロンでパレスチナ人29名を殺害したカハ主義者バルーフ・ゴールドシュタインの写真を部屋に飾るほどのカハ主義者である。しかし、このような極右政治家の行動は、右派有権者にとって既存の右派政党にない目新しい行動として映り、支持を集めた。また、今次選挙で両党が連合を組んだ背景には、ネタニヤフ元首相が右派勢力の議席増のために両党に連合形成を勧めた事実もある。
問題は、ネタニヤフ元首相が組閣を命じられた場合、宗教シオニズムと連立を組むのか、そうであるならば極右の両党首にどの閣僚ポストを割り当てるかである。宗教シオニズムは、選挙公約として「左派的」(反右派的)な司法制度の独立性を弱める司法改革を掲げ、ベン・グヴィル党首は公共治安相ポスト、スモトリッチ党首は国防相ポストを求めている。人種主義的な極右勢力の連立入りには、国内の反ネタニヤフ勢力だけでなく米国の有力ユダヤ人団体からもイスラエルの民主主義を揺るがしうるという懸念の声が上がっている。ネタニヤフ元首相の返り咲きは、イスラエルの民主主義の後退、米国・イスラエル関係の再びの悪化という可能性を含んでいる。
(上席研究員 金谷 美紗)
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