中東かわら版

№111 イラク:スーダーニー内閣の発足

 2022年10月28日、大統領に選出されたアブドゥルラティーフ・ラシード氏によって首相候補に指名されたムハンマド・シヤーウ・スーダーニー氏を筆頭に、以下の通り新内閣が正式に発足した。新内閣は早々に初となる閣議を開き、腐敗の一掃、雇用の創出、公共サービスの改善等について協議し、一年以内の選挙実施についても言及した。

役職

氏名

政治会派

連合

首相●

ムハンマド・シヤーウ・スーダーニー

ユーフラテス運動★

調整枠組

外相

フワード・フサイン

クルディスタン民主党

救国同盟

石油相●

ハイヤーン・アブドゥルガニー

法治国家連合★

調整枠組

計画相●

ムハンマド・アリー・タミーム

タカッドゥム☆

救国同盟

財相●

タイフ・サーミー(女性)

ユーフラテス運動★

調整枠組

国防相●

サービト・ムハンマド・サイード

アズム☆

救国同盟

内相●

アブドゥルアミール・カーミル

ユーフラテス運動★

調整枠組

保健相●

サーリフ・マフディー

イラク・イスラーム最高評議会(法治国家連合)★

調整枠組

移民・移住者相

イーファーン・ファーイク・ヤアクーブ

バビロン運動(キリスト教)

その他

交通相

ラージク・ムハイビス・アイジミー

ファタハ★

調整枠組

水資源相●

アウン・ジヤーブ・アブドッラー

タスミーム★

その他

労働・社会事項相●

アフマド・ジャーシム・サービル

サナド(ファタハ)★

調整枠組

青年・スポーツ相●

アフマド・ムハンマド・フサイン

法治国家連合★

調整枠組

教育相●

イブラーヒーム・ヤーシーン

アズム☆

救国同盟

貿易相●

アシール・ダーウード・サルマーン

アズム☆

救国同盟

司法相

ハーリド・サラーム・シャウワニー

クルディスタン愛国同盟

調整枠組

電力相●

ジヤード・アリー・ファーディル

イスラーム道徳党(ファタハ)★

調整枠組

通信相●

ハイヤーム・ウブード・カージム

アクド★

調整枠組

農業相●

アッバース・ジャブル・ウバーダ

法治国家連合★

調整枠組

高等教育相●

ナイーム・アブド・ヤーシル

アサーイブ・アフル・ハック★

調整枠組

産業・鉱物相●

ハーリド・バッタール・ナジュム

タカッドゥム☆

救国同盟

文化・遺跡相●

アフマド・ファカーク・アフマド

タカッドゥム☆

救国同盟

●は新任、☆はスンナ派、★はシーア派

※環境相、建設・住宅・地方自治・公共事業相は選出合意に至らずに空位状態

 

評価

 表の通り、首相含む22の閣僚の内、内訳はシーア派が13、スンナ派が6、クルドが2、他が1となった。また政党連合の内訳でいえば、サドル派以外のシーア派グループが集まった調整枠組が過半数を占めている。7月にサドル派議員が一斉辞職した後、最大会派となった調整枠組が、そのまま新政権のかじ取りを担う形になった。

 繰り返し報じられているように、サドル派の一斉辞職の契機は競合勢力である調整枠組がスーダーニー氏を首相候補として擁立したことである。同氏は2010~2018年、調整枠組の中核である法治国家連合の主体、イスラーム・ダアワ党のマーリキー及びアバーディー首相の下で閣僚を務めた。2020年にイスラーム・ダアワ党から離党し、現在は少数政党のユーフラテス運動の代表を務めるものの、現在も法治国家連合とのつながりが深く、サドル派から見ればマーリキー元首相の「子飼い」のように映る。サドル派は辞職後も、あたかも裏の最大会派のごとく存在感を維持し、7月末から続いたグリーンゾーン内部でのデモはそれを裏づけるものであった。代表者のサドル師は政界引退を発表したが、支持者(大衆)を通じて新内閣の運営に影響を及ぼすことも考えられる。

 そうした可能性も見据えてか、スーダーニー新首相は一年以内の選挙実施に言及し、サドル派議員への国政への再進出を呼びかける姿勢を示した。結果としてサドル派を排除して誕生した新内閣だが、これによって逆にサドル派の存在感が強まる事態への警戒が同首相には見られる。

 

【参考】

「イラク:新大統領の選出及び首相指名の余波」『中東かわら版』No.102

山尾大「「シーア派割れ」と変わらない政治構造――第5回イラク議会選挙後の新政権形成をめぐる闘争」『中東研究』545号、2022年9月、101~112頁。

(研究員 高尾 賢一郎)

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