中東かわら版

№106 イラン:ロシアへのドローン供与疑惑をめぐりEUが制裁を発動

 2022年10月17日、ロシアがウクライナの首都キーウを自爆型ドローン、通称「カミカゼ・ドローン」で攻撃し、市街地が破壊された他、複数の民間人が死傷した。これを受けて、ウクライナのポドリャク大統領府顧問は、攻撃を仕掛けたドローンはイラン製だとして、イランを「ウクライナ人殺し」と非難した。翌18日、ウクライナのクレーバ外相は、イラン製ドローンがウクライナに危害を加えていることは間違いないとして、ゼレンスキー大統領に対してイランとの断交を進言するなど、ウクライナ・イラン間の緊張が高まってきた。国連安保理は非公開会合を19日に開き、イランによるロシアへのドローン供与疑惑について協議した。

 これを受けて、20日、EUは、ウクライナの領土保全、主権、独立を脅かしているとして、イランの3個人、及び、1法人を制裁対象に指定した。指定された3個人は、イランのバーゲリー軍参謀長、クレイシー国防・軍需省供給・研究・産業部門長、及び、アーガージャーニー革命防衛隊空軍無人航空機部門司令官で、1法人はシャーヘド航空産業シャーヘド研究部門(注:自爆型ドローン「シャーヘド」を製造している革命防衛隊系列企業)である。EUは、10月17日、抗議活動への暴力的な弾圧に関与したとして、イランの11個人、4法人に制裁を科していたが、イランによるロシアへのドローン供与疑惑を巡っては今次の制裁が初めてとなる。

 一方で、イランのキャナアーニー外務報道官は18日、西側諸国によるイランがロシアにドローンを供与したとの報道について、根拠がないとして改めて否定した。ロシアも、こうした疑惑を根拠のない糾弾であるとして拒否しており、国連に違法な検証をしないよう求めるとともに、検証が行われる場合は国連との関係を見直さざるを得ないとの立場を示している。

 

評価

 イランによるロシアへのドローン供与疑惑については、本年7月中旬より米政府高官らによって指摘がなされてきた(経緯は『中東かわら版』No.78参照)。今回、首都キーウを中心にウクライナ各地で実害が生じたことを受けて、ウクライナを支持する欧米が、このドローンの供給元と見做すイランに経済的圧力を実際にかけ始めたことになる。実際の効果は限定的であるかもしれない。しかし、これまでは舌戦に過ぎなかったものが、今次措置を経て、欧米とイランとが対立する構図が鮮明となっており、事態の緊迫化が一段進んだといえる。

 ウクライナ軍が9月13日に公表した、同国東部ハルキウで除去されたとされるドローン「ゲラン2」の残骸は、写真を見る限り「シャーヘド136」に酷似している。ゼレンスキー大統領は同問題を重視し、ロシアが使用しているのはイラン製ドローンだと断言、駐ウクライナ・イラン大使の信任を取り消すとともにイラン大使館員数を減らすことを決定するなど、外交関係を格下げした(注:イラン側は一貫してドローン供与疑惑を否定)。戦時下にある現在、様々な空間で情報戦が繰り広げられているため、今後、公正且つ中立な形での検証が行われることが待たれる。

 イラン側の主張に沿えば、7月に行われたバイデン米大統領の中東訪問前後から、欧米が何らかの政治的目的をもって、事実に基づかないプロパガンダを展開している、という説明になるかもしれない。しかし、実際のところ、現場から回収される残骸の形状が、イラン製ドローンに非常によく似ているように見受けられることは否定できない。そうだとすれば、イラン現体制の三権を占める保守強硬派、並びに、体制の護持を担う革命防衛隊が、欧米との関係維持・改善よりも、財政が逼迫する状況下、ロシアとの良好な関係構築の方をより重視した可能性がある。こうした現状を踏まえると、近年の保守強硬派の台頭に伴い、イラン体制内に権力の監視役が事実上不在となったことで、多様な意見が反映されず、体制指導部内に驕りが生じ、選択肢の幅が限りなく狭まる中で全体的に考えが硬直化しているようにも見える。この点は、長期的に見ると、国民からの遊離につながり、ひいては体制の安定性そのものに影響を与えるかもしれない。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「イラン:ライーシー大統領がロシアのプーチン大統領と会談」2022年度No.45(2022年7月1日)

・「イラン:ロシアとの金融・銀行、運輸、エネルギー等の分野での関係強化に向けた動き」2022年度No.48(2022年7月12日)

・「イラン:ロシアのプーチン大統領によるイラン訪問の成果とその限界」2022年度No.53(2022年7月21日)

・「イラン:ロシアへのドローン供与疑惑と核交渉への影響」2022年度No.78(2022年9月1日)

(研究員 青木 健太)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP