中東かわら版

№103 チュニジア:IMFとの新規融資で事務レベル合意

 2022年10月15日、チュニジア政府代表団は国際通貨基金(IMF)との新規融資に係る協議で、拡大信用供与措置(EFF)による支援実施に事務レベルで合意した。合意内容では、チュニジアが48カ月間で、19億ドル相当の14億7200万SDR(特別引出権)の融資金を受け取ることとなる。今後、12月のIMF理事会での最終承認に向けて、チュニジア政府は融資条件である、段階的な補助金廃止や国営企業改革、インフォーマル経済部門への課税強化などの改革に着手する必要がある。

 政府・IMFが合意した改革案に対し、政治的影響力を持つチュニジア労働者総同盟(UGTT)は反対の姿勢を見せている。UGTTは9月の政府との賃上げ交渉で、6月に実施したゼネストの効果もあり、公的部門の賃金引上げに係る同意を得ることができた。しかし、タブービーUGTT議長は、国民生活に悪影響を及ぼす補助金の廃止や国営企業の民営化には同意していないと述べた。

 

評価

 チュニジア政府によるIMF融資協議は、マシーシー前内閣時より開始され、2021年7月に実権を握ったサイード大統領の下でも継続し、今般ようやく事務レベルでの合意に至った。融資の最終合意は12月のIMF理事会で決定されるものの、チュニジア政府としてはIMFからの融資獲得を信用の基盤として、その他の国際機関や諸外国から二国間援助を得たい考えである。特に、サイード大統領は財政状況を好転させるため、湾岸アラブ諸国からの大型の財政支援に期待を寄せていると見られる。他方、毎年の債務返済額は歳入だけで補えず、対外借入からも捻出している状況を考えると、IMFの融資は将来的に更なる財政負担となるだろう。

 この先、チュニジア政府がIMFと同意した改革案を実現できるのか注目される。UGTTは補助金の廃止に猛反対しており、政府が検討中の低所得層に限定した支援にも納得していない。また、記録的な物価上昇や燃料不足により、経済状況は日々深刻化しているため、補助金カットによる食料・エネルギー価格の更なる上昇は、国民の社会経済的な不満をより一段と高めるだろう。こうした中、12月の議会選挙に向けて政治的緊張も高まっており、サイード大統領の退陣を求める抗議デモが活発化している。このため、サイード大統領がこれまでと同様に、強硬な手法で改革案を実行するとなれば、チュニジア情勢の混乱により拍車がかかる恐れがある。

 

【参考情報】

<中東かわら版>

・「チュニジア:IMFとの融資協議と財政改革」No.19(2021年5月12日)

・「チュニジア:労組が6月16日にゼネスト実施を予告」No.27(2022年6月1日)

(研究員 高橋 雅英)

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