中東かわら版

№101 パレスチナ:パレスチナ和解合意文書「アルジェ宣言」の署名

 2022年10月13日、ファタハやハマースなど14のパレスチナ諸派は、アルジェリアのタブーン大統領の仲介で行われたアルジェでの会合で、パレスチナ民族の統一を目指す和解文書「アルジェ宣言」に署名した。ファタハからはアッザーム・アフマド、ハマースからはイスマーイール・ハニーヤなどが出席した。アッバース大統領は、カザフスタンでのプーチン大統領との会談のため欠席した。

 「アルジェ宣言」では、1年以内に西岸、ガザ、エルサレムで大統領選挙と総選挙を実施すること、パレスチナの民族諸機関の統一、などが記された。また、仲介役のタブーン大統領は、「アルジェ宣言」を11月2~3日にアルジェで行われるアラブ連盟首脳会議で報告し、フォローアップ委員会を結成すると述べた。以下は、『クッズ』紙が掲載した「アルジェ宣言」9項目の要約である。

  1. 民族統一は、占領への抵抗、パレスチナ人民の正当な諸目標を実現するための基礎である。パレスチナの地における対立を解決し、パレスチナ人民の唯一正統な代表であるパレスチナ解放機構(PLO)に全ての民を参加させるために、対話の言葉を採用する。
  2. パレスチナの地およびディアスポラから広く選挙への参加を許可し、パレスチナ民族諸勢力間で政治的パートナーシップの原則を打ち建てる。
  3. 民族分裂の終結による民族和解を実現するため、作業計画を採用する。
  4. PLOの役割を強化し、全パレスチナ諸派の参加によってPLO諸機関を活性化する。
  5. 「アルジェ宣言」署名日から1年以内に、パレスチナ内外でパレスチナ民族評議会(PNC)選挙を比例代表制で実施する。(選挙後、)アルジェリアはPNCの開催をホストする。
  6. 「アルジェ宣言」署名日から1年以内に、ガザ、西岸、エルサレムで大統領選挙と総選挙(※パレスチナ立法評議会と思われる)を実施する。
  7. イスラエル占領との戦いと抵抗に役立つ方法で、パレスチナ民族の諸機関を統一し、建造物やインフラの再建に必要なエネルギーと資源を動員する。
  8. 民族分裂の終結と民族統一の作業をフォローアップするため、パレスチナ諸派は事務局を活性化する。
  9. アルジェリア・アラブ作業チームが「アルジェ宣言」の進捗状況をフォローする。

 

評価

 突然ともいえるアルジェリア仲介のパレスチナ民族和解合意は、アルジェリア政府の政治的な意図が背景にある。アルジェリアは11月にアラブ連盟首脳会議をホストするが、会議を成功させるための準備に苦労している。アラブ連盟内で中心的役割を担うエジプトとは、エチオピア首相のアルジェリア訪問によって関係が悪化し、エジプトから首脳会議延期の圧力を受けている。シリアのアラブ連盟復帰問題については、シリアのミクダード外相が本件を議題に上げないでほしいとアルジェリアのラマームラ外相に伝えた。アラブ連盟首脳会議の目玉となりうる議題が消えたことになる。そこで、タブーン大統領は、対立関係にあるモロッコのムハンマド6世国王に首脳会議出席の招待状を送付することで、会議の成功を試みている。この文脈で考えると、「アルジェ宣言」は、アラブ連盟首脳会議でアルジェリアの外交的成果として提示できる格好の材料である。

 パレスチナ諸派としては、当然ながらアルジェリアの仲介は歓迎すべきイニシアチブである。パレスチナ側には、アラブ諸国とイスラエルの関係正常化によるパレスチナ問題の周辺化への焦りがあり、イスラエルとの関係正常化に反対するアルジェリアは、パレスチナが必要とする協力相手である。

 しかし、「アルジェ宣言」には、パレスチナ諸派が和解に向けて行動を統一するための具体的方法は一切書かれておらず、民族和解の実現可能性は低いと言わざるをえない。また、パレスチナ諸派に大きな影響力を有するエジプトがアルジェでのパレスチナ諸派会合に関与していないことも、「アルジェ宣言」の有効性に疑問符を投げかける。国営紙『アフラーム・オンライン』は、アラブ連盟首脳会議の開催前に和解合意を発表したことは、「アルジェリアの外交的クーデタのようなものである」と冷評した。さらに、パレスチナ自治政府のアッバース大統領がアルジェに向かわずプーチン大統領との会談を選択したことも、和解合意の弱さを表している。

 「アルジェ宣言」においてパレスチナ諸派間の前進として評価できる点は、PLOがパレスチナ民族の唯一正統な代表であるという文言が含まれたことである。PLOに参加しないハマースがこの文言を認めたのであれば、パレスチナ諸派の対話による前進と言えよう。

(上席研究員 金谷 美紗)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP