中東かわら版

№99 サウジアラビア:米国における対サウジ強硬論の動き

 2022年10月11日、米国ホワイトハウスはバイデン大統領の意向として、対サウジ関係を見直すことを発表した。先立つ5日に行われた、サウジが主要メンバーを務めるOPECプラスの会合で、11月以降の日量200万バーレルの石油減産が決定されたことを受けたものである。米国内ではこの決定が、原油価格の高騰につながり、ひいてはエネルギー産出国であるロシアを利する動きだと受け止められた。一方、サウジのファイサル・ビン・ファルハーン外相は、同決定を「純粋に経済的な観点からなされたもので、満場一致で承認に至った(=サウジが独善的に進めたわけではない)」としつつ、米国と「共通の利害に基づいた」軍事協力を維持する旨を述べた。

 

評価

 世界的な原油高を受けて、米国はかねてよりサウジに石油増産を求めてきた。今年7月のバイデン大統領のサウジ訪問の際はそれについて確約を得られなかったが、翌8月にはOPECプラスが9月以降の増産に合意したと発表された。これとあわせて、米国は2021年に停止したサウジへの武器輸出の再開を発表しており、一種のバーターが成立したと見られた。しかしながら、9月以降の増産は日量10万バーレルに過ぎず、それも10月には再び減産に転じた。そして同200万という今回のOPECプラス会合での決定は、先の増産決定のご破算どころではなく、バイデン大統領にとっては再度メンツをつぶされた形となった。 

 ファイサル・ビン・ファルハーン外相が示唆したように、サウジはOPECプラスの減産決定を、米国が批判するようなロシアへの寄り添いとは位置づけていない。しかしロシアはこれを、米国に対抗するための「公平な、熟考された、計画的な」措置だと称賛しており、現下のウクライナ情勢も踏まえた政治的行為として強調した。

 実際のところ、サウジがロシアのウクライナ侵攻を支持しているわけではない一方、ロシアとの関係維持を強く見据えていることは確かであり、このことはロシアの国際社会での孤立を主導し、さらには11月に中間選挙を控えるバイデン政権にとっての懸念材料となる。とりわけ後者に関して、サウジがバイデン政権の功績に利する存在となっていないことは決定的である。一方、10月16日の共産党全国大会で習近平国家主席が空前となるトップ第3期目への突入を見据える中、サウジは中国との関係を緊密なものとしている。バイデン政権からすれば、サウジはロシア・中国という、自国の競合相手と急速な接近を図る、当て付けがましい存在とも映るだろう。そう考えると、関係見直しの発表はやむなしとも言えるが、これによってサウジが直ちに米国よりの姿勢を見せるようなことは、国益の観点から考えてもないだろう。

 

【参考】

「サウジアラビア:バイデン米大統領のサウジ訪問」『中東かわら版』No.51。

「サウジアラビア・UAE:米国が武器売却を発表、イエメン戦争の停戦合意延長とOPECプラスの石油増産がこれに続く」『中東かわら版』No.64。

「№71 UAE:「一つの中国」原則への支持表明と米国へのけん制」『中東かわら版』No.71。

(研究員 高尾 賢一郎)

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