№98 エジプト・ギリシャ:トルコとリビアのエネルギー開発合意を批判
トルコとリビア国民統一政府(GNU)が10月3日にリビアでのエネルギー開発で合意したことを受け、エジプトのシュクリー外相とギリシャのデンディアス外相は9日にカイロで会談し、同合意の違法性を確認した。同合意は、トルコ企業とリビア国営石油会社が、リビアの陸と海で油田やガス田の探査・掘削を協力して実施する内容である。海でのエネルギー開発は、2019年11月にトルコとリビア国民合意政府(GNA)が署名した海洋境界合意に基づいて進められるという。
エジプトとギリシャが10月3日のトルコ・リビア合意に反対する根拠は、(1)2019年11月に合意されたトルコ・リビア間排他的経済水域(EEZ)の境界線はギリシャの主張するEEZを無視して一方的に引かれた、(2)GNU政府はそもそも2021年12月に任期満了を迎えており、任期切れの政府が国際合意に署名する権限はない、というものである。ギリシャのデンディアス外相は、今次合意はギリシャのEEZを侵害する内容であり、トルコはリビアの内戦状況を利用して地中海地域の不安定化を試みていると非難した。エジプトのシュクリー外相は、国連に対して、任期切れにもかかわらず国際合意に署名したGNU政府について沈黙せず、明確な立場をとるべきだと主張した。
評価
トルコとリビアによるエネルギー開発合意と、これに対するエジプトとギリシャの反発が重要である理由は、東地中海地域における緊張の高まりが再燃する恐れ、特にリビアを舞台としたトルコ・エジプト間の対立激化が懸念されるためである。2019年11月にトルコとリビアが一方的に両国のEEZ境界線を設定し、軍事協力合意にも署名した後、トルコはリビアへの軍派遣を開始し、エジプトとの緊張が高まった。エジプトのシーシー大統領はリビアの不安定化がエジプトの国家安全保障を脅かすとし、トルコのリビア介入を強く非難し、リビアへの軍事介入も辞さないと警告した。その後、エジプトとギリシャは自国の国益を侵害する行為を繰り返すトルコに対抗するため、首脳、外相、国防相、軍トップレベルの会談を重ね、合同軍事演習を数度実施し、対トルコ戦線を形成してきた。
一方、エルドアン政権は2021年からエジプトとの関係改善に乗り出し、エジプトと2回の副外相会談を実施した。その背景には、域内諸国との対立による外交的孤立を解消し、2023年の大統領選挙・議会選挙に向けて政権基盤を固めたい思惑があるとされる。しかし、エジプトはトルコとの関係改善はトルコの行動を見て判断するとの態度を貫き、副外相会談の後、関係改善に向けた外交は滞っていた。今回のトルコ・リビア合意は、エジプトにとってトルコと関係改善を進めない正当な理由になるだろう。また、トルコとエジプトの軍事的緊張に関しては、トルコとリビアがギリシャの主張するEEZ内で開発を進めなければ、緊張は回避されると思われる。
【参考情報】
<中東かわら版>
・「リビア・トルコ:エネルギー協力に係る覚書」No.96(2022年10月4日)
・「トルコ・リビア:軍事・海洋境界合意による東地中海諸国の対立」No.164(2019年12月27日)
<中東研究>
・金谷美紗「東地中海のガス開発協力とトルコの関係改善外交――エジプトとイスラエルを中心に」第545号、65~75頁。
(上席研究員 金谷 美紗)
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