№97 サウジアラビア:2029年のアジア冬季競技大会の開催が決定
- 2022湾岸・アラビア半島地域サウジアラビア
- 公開日:2022/10/05
2022年10月4日、カンボジアで開かれたアジア・オリンピック委員会の総会において、サウジが2029年のアジア冬季競技大会(AWG: Asian Winter Games)の開催国となることが決定(落札)した。開催地は現在サウジ北西部で開発中の未来都市NEOMの一部、トロヘナ(TROJENA)である。トロヘナはNEOMを構成する山岳リゾート地として今年3月に建設構想が発表され、ウィンター・スポーツやマリン・スポーツが可能な場所として、2026年に完成予定とされる。サウジは今年8月に、同地でのAWG開催に立候補していた。
※TROJENA特設ページ(日本語版)
https://www.neom.com/ja-jp/regions/trojena
評価
AWGは、1986年に日本オリンピック委員会の主導で発足し、3~6年間隔で行われ、直近は2017年の第8回・札幌大会に遡る。国際大会とはいえ、ウィンター・スポーツが盛んな国にとっては必ずしも一線級のアスリートを送り込む大会とは見られていないが、サウジにとって同大会の主催には以下のような意義が見いだせる。
一つ目は、近年サウジがスポーツ大会を中心とした国際イベントの招致に意欲を示し、複数に立候補している中(下表参照)、今般のAWGが呼び水になる可能性である。中でも重要なのは2030年の万国博覧会である。2030年というタイミングから分かるように、開催が実現すればサウジ・ビジョン2030の「有終の美」に花を添える一大イベントと位置づけられるだろう。
表 サウジで開催予定及びサウジが立候補中の主な国際イベント
開催年 |
名称 |
状況 |
中東での開催歴 |
2020~ |
ダカール・ラリー |
2020年以降、サウジ開催 |
北・西アフリカ諸国(1978~2008) |
2026 |
AFC女子アジアカップ |
立候補中 |
ヨルダン(2018) |
2027 |
AFCアジアカップ |
立候補中 |
ラマト・ガン(1964)、テヘラン(1968、1976)、クウェイト(1980)、ドーハ(1988)、アブダビ(1996)、ベイルート(2000)、ドーハ(2011)、アブダビ(2019) |
2029 |
アジア冬季競技大会 |
サウジ開催(トロヘナ) |
- |
2030 |
万国博覧会 |
立候補中(リヤド) |
ドバイ(2021)、ドーハ(2023;国際園芸博覧会) |
2034 |
アジア競技大会 |
サウジ開催 |
テヘラン(1974)、ドーハ(2006)、ドーハ(2030) |
出典:現地報道を元に筆者作成
二つ目は、AWGが中東では初の開催となることである。現在開催予定、あるいは立候補中の国際イベントは、いずれも中東での開催歴があり、中でも2021年に万博を主催したUAE、2022年にFIFAワールドカップを開催予定のカタルといった近隣諸国のプレゼンスが強い。一方のサウジは、2019年の観光査証発行の開始と並行し、海外から著名なアーティストを呼ぶなどして娯楽イベントの拡充に努めてきたが、国際イベントの運営ではこれらの国々の後塵を拝してきた。万博・W杯ほどの知名度はないとはいえ、AWG開催が実績として残ることに変わりはない。
三つ目は、AWG開催を通してNEOM、ひいてはその母体スキームであるサウジ・ビジョン2030を対外的にアピールできることである。サルマーン現国王の年齢(86歳とされる)を考えれば、ビジョン2030が「有終の美」に向かうのと並行して、御代替わりへの関心も自ずと高くなるだろう。こうした背景から、サウジはこれまでビジョン2030の成果を基本的にムハンマド皇太子の事績として称えることで、次代のリーダーの実行力をアピールしてきた。AWG開催もこの一助として位置づけられるだろう。
NEOM建設の進捗状況については依然として不明な点が多く、その点は気がかりである。しかし見方を変えれば、2029年にAWG開催というデッドラインが設定されたことで、その状況が大きく変わることも期待されよう。
(研究員 高尾 賢一郎)
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