中東かわら版

№96 リビア・トルコ:エネルギー協力に係る覚書

 2022年10月3日、トリポリ訪問中のトルコのチャウシュオール外相は、国民統一政府(GNU)のダバイバ首相やマングーシュ外相と会談し、エネルギー協力に関する覚書に調印した。同覚書に基づき、両国は、リビア国営石油会社とトルコ企業との間で合弁会社を設立するほか、リビアの陸海双方で油田・ガス田の探査や掘削作業を実施する計画である。

 チャウシュオール外相は、二国間の経済関係の強化に向けて、合同経済委員会を開催する用意があると述べた。また、トルコ航空のリビアへの運航再開も含め、エネルギーのみならず多方面でリビアとの協力を促進していく考えを示した。

 一方、GNUと対立するリビアの国内勢力は、GNU・トルコ間の覚書に強く反発している。東部拠点のサーリフ代表議会(HOR)議長や、同議会が承認する国民安定政府(GNS)のバーシャーガー首相は、GNUの政権任期は昨年12月24日に満了したため、それ以降にGNUが署名する合意や覚書は違法だと主張し、今次覚書も認めない立場を強調した。

 

評価

 チャウシュオール外相のリビア訪問には、アカル国防相やドンメズ・エネルギー天然資源相、ムシュ貿易相、カルン大統領府報道官らハイレベル代表団も同行しており、トルコのリビアに対する関心の高さが伺える。今般のエネルギー協力に係る覚書は、トルコが引き続きリビアに関与していく意志の表れである。トルコは今年6月にリビア派兵期間の延長を決定するなど、軍事面でもGNUを支えている。

 今次覚書の注目点として、東地中海におけるトルコの資源開発活動の明確化と、リビアの石油産業へのトルコ企業の進出が挙げられる。今次覚書では、探査や掘削作業の実施が盛り込まれており、2019年11月の海洋境界画定に係る覚書よりも踏み込んだ内容となった。こうした背景には、トルコがエネルギー調達先の多角化や調達コストの削減といった喫緊の課題を抱えていることがある。

 また、トルコ企業がリビアの石油産業に本格的に進出していくと予想される。リビアの油田開発は主に欧米やロシアの企業が手掛けており、トルコはこれまで関与してこなかった。ただ留意すべき点は、油田が集中する東部や南西部はハフタル率いるリビア国民軍(LNA)の支配領域に位置することだ。この点より、トルコ企業が油田開発に参入するにはGNUだけでなく、ハフタルとの協力も不可欠である。

 今後、GNU・トルコ間の覚書が東地中海における緊張関係を高める要因となるだろう。ギリシャやエジプト、フランスはガス田開発をめぐって、トルコの海洋進出を警戒してきた。このため、トルコ・ギリシャ関係の更なる悪化は避けられず、また関係改善に向けたエジプトとの関係正常化交渉にも悪影響を及ぼすことが懸念される。その一方、チャウシュオール外相は、主権国家間で合意した今次覚書に第三国が干渉する権利はないと述べるなど、トルコはいかなる国からの抗議も受け入れない姿勢でいる。こうした状況下、リビアのエネルギー開発をめぐる国家間対立が、リビアでの情勢変化の引き金になる恐れもある。

 

【参考情報】

<中東かわら版>

・「リビア:トルコ軍のリビア派兵期間の延長」No.34(2022年6月14日)

 

<中東分析レポート>【会員限定】

・「フランスの中東政策の新指針――湾岸諸国との関係強化の狙い――」R21-13(2022年3月)

・「中東諸国の地域外交におけるギリシャのプレゼンス ――トルコ包囲のその先――」R22-08(2022年8月)

(研究員 高橋 雅英)
(研究員 金子 真夕)

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