中東かわら版

№94 イエメン:停戦期限が終了、フーシー派が越境攻撃の可能性をほのめかす

 2022年10月1 日、サウジのファイサル・ビン・ファルハーン外相と米国のブリンケン国務長官は電話会談で、2日に期限を迎えるイエメン国内の停戦合意につき協議した。しかし翌2日、同合意を仲介している国連のグルントベルク・イエメン担当特使は、停戦期限の延長をイエメン国内の各勢力に呼びかけたが合意に至らなかったと発表した。これを受けて統一政府(サウジ・米国等、いわゆる国際社会が支持)のアフマド・ビン・ムバーラク外務・移民相は、自派は多くの譲歩を見せており、停戦の障害はアンサールッラー(フーシー派)だとTVで発言した。これについてアンサールッラー側は、統一政府・国連との交渉が行き詰まったことを認めた。この上で2日、同派が支援する国民政府軍は、サウジ・UAE国内の石油会社に同国を去るよう警告するなど、両国への越境攻撃を再開する可能性をほのめかした。

 

評価

 2022年4月以来、イエメンでは2度の延長を経て停戦期間が続いてきた。この間、イエメン国内での難民者数や死傷者数は目に見えて減少していたとの評価・報告が、国際支援団体等からしばしば出されていた。したがって、今回の協議で停戦延長に関する合意に至らなかったのは、イエメン全土での人道支援を継続する上で極めて深刻な事態につながる可能性が高い。

 今回、停戦延長が合意に至らなかった背景に関して、統一政府は具体的にどのような「譲歩」を見せたのかの詳細を述べていない。しかし同政府の目下の関心は、拠点であるアデンに近い南部タイズ県の安定化であり、これについてはおそらく譲歩はなかったのではないか。同県でのアンサールッラーの伸張は統一政府にとって焦眉の急である。

 一方でアンサールッラー側に目を向ければ、合意に至らなかった理由として、これまでの同派の主張から考えられるのは、サナア国際空港とフダイダ港という物流ラインの完全開放の要求が通らなかったためであろう。同派はこの要求を医療物資や石油等、市民の生活や人道支援活動にとっての必需品の輸入に不可欠と位置づけ、2022年4月の最初の停戦合意を経て部分的な開放は果たしたものの、完全開放を訴え続けてきた。しかし統一政府やサウジは、人や物資の移動を可能にすることでアンサールッラーが軍備増強を図る事態を懸念している。人道支援であれば、抗戦を止めて自分たちに与した後、国際社会から受ければ良いというのが統一政府・サウジ側の理屈だろう。

(研究員 高尾 賢一郎)

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