中東かわら版

№87 UAE・バハレーン:アブラハム合意二周年を迎えた動向

 2022年9月15日、UAE・バハレーンはイスラエルとの国交正常化合意(アブラハム合意)への署名から二周年を迎えた。これに際し、各国が同合意の意義を改めて強調している。

 UAEでは18日、アブドッラー・ビン・ザーイド外務・国際協力相がイスラエルを訪問し、ガンツ国防相及びクネセト(議会)メンバーと会談した他、イスラエル工科大学(Technion)を訪れた。ガンツ国防相との会談では、中東の平和と安定に向けたアブラハム合意の役割の強化や共通の関心事項につき協議した。この際、アブドッラー・ビン・ザーイド外務・国際協力相はパレスチナ自治政府への支援の重要性を強調した。

 またバハレーンでは、16~18日にかけて都市・農業省のハーリド・ビン・アフマド農業・海洋資源担当次官がナエフ駐バハレーン・イスラエル大使と会談し、食料安全保障や農業機械化に向けた協力につき協議した他、ザーイド・ビン・ラーシド商工相がイスラエルのバルビヴァイ経産相とマナーマで会談した。同会談では二国間の共同投資、経済プロジェクトについての見通しが議論された。

 なお先立つ6日、ハイェク駐UAEイスラエル大使はUAE国内メディアのインタビューに対し、アブラハム合意後のUAE・イスラエル関係につき述べている。これによれば、同合意後にUAE・イスラエル間では戦略的パートナーシップ合意を含む20の合意が交わされ、45万人以上のイスラエル人観光客がUAEを訪れた。また2022年上半期の二国間の貿易総額は前年同時期から117%増加し(5億6千万ドル→12億1400万ドル)、今後数年の内にUAEはイスラエルの貿易相手の上位10カ国に加わることが見込まれている。

 

評価

 アブラハム合意以降、UAEとバハレーンはイスラエルとの国交樹立による多彩なメリットを周知することで、その外交的決定の合理性及び正当性をアピールしてきた。同合意二周年を迎えるタイミングでも、両国は議会、科学技術、国防、農業、投資、経済といった幅広い分野での関係強化につき協議し、これらが報じられている。実際のところ、ハイェク大使のインタビューにもあるような実質的な関係強化が進んでいる様子がうかがえる。

 アブドッラー・ビン・ザーイド外務・国際協力相の「パレスチナ自治政府への支援」への言及に見られるように、UAE・バハレーンとしては、イスラエルとの関係構築をプラグマティックな利益追求の方法であると同時に、中東和平プロセスの状況打開の一手とも位置づけている。ただしアブラハム合意以降、中東和平に関する具体的な進展は見られず、パレスチナ側にはUAEやバハレーンに何らかの呼びかけを行う機運すら見られない。こうした状況に変化の兆しが現れるかどうかが、アブラハム合意に続くアラブ諸国が今後現れるかどうかにも影響を及ぼすと思われる。

 

【参考】

『中東研究』541号(特集:イスラエル・アラブ諸国の関係正常化)、2021年5月。

「アブラハム合意後のアラブ諸国・イスラエル関係と湾岸ユダヤ協会(AGJC)」『中東分析レポート』No.R22-01、2022年4月。

(研究員 高尾 賢一郎)

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