中東かわら版

№86 イラン:上海協力機構(SCO)加盟にかかる約束覚書に署名

 2022年9月14日、アブドゥルラヒヤーン外相はサマルカンドで、上海協力機構(SCO)への正式加盟にかかる約束覚書に署名した。同外相は、これによって、イランと同機構との関係は、経済、貿易、トランジット、エネルギー等の多分野で新たな段階に入ったと述べ、SCOの張明事務局長(中国人外交官)が祝意を示すとともに今次の出来事を重要な進展だと呼んだとツイッターに記した

 イランは2021年9月17日に、ドゥシャンベで開かれたSCO首脳会議で、SCOへの正式加盟を認められた。SCOには、中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、インド、パキスタンの8カ国が加盟している(この他、オブザーバー3カ国、対話パートナー6カ国がある)。

 また、2022年9月15日には、ライーシー大統領がロシアのプーチン大統領と会談した。両首脳は、銀行、陸海輸送、税関、エネルギー等の多分野における二国間の最近の進展に満足を示した。ライーシー大統領は、米国は経済制裁で一国の活動を阻害できると考えているが、これは誤った計算だと非難した。一方、プーチン大統領は、NATOの拡大を非難し、NATOの脅威は欧州に留まるものではないと述べ、ロシア・イランは協力を進めてゆくべきと発言した。また、同大統領は、イランが有する最新技術を称賛し同分野での協力関係を築きたいと伝えた他、来週にもロシア企業から80名がイランを訪問する計画だと述べた。

 

評価

 今次の覚書署名によって、イランが9番目のSCO正式加盟国となるべく、着実に物事を進めていることが確認された。現地報道では2023年4月にも、イランの正式加盟手続きが完了すると報じられている。ライーシー大統領のこれまでの外遊先は決して多くないが、そうした中でもSCO首脳会議には2年連続で参加しており、同機構を重視していることがわかる。

 米国のトランプ前政権(2017-2021年)が対イラン強硬政策を取り、厳しい軍事・経済的圧力をかけたことの反動で、イランは中国、ロシアへの接近を余儀なくされた。一方のロシアの観点からしても、本年2月24日のウクライナ侵攻を受けて欧米諸国が対ロ制裁を強化する中、米国の単独覇権主義への抵抗、並びに、制裁下での生き残り戦略の一環として、イランとの関係強化を重視してきた。イランが「ルック・イースト」戦略を推し進めると同時に、ロシアがイランを必要としたことで、両国が互いに接近する構図となっている。

 イランは1979年2月の革命成立以降、対外政策の基本方針に「東でも西でもない」を据えて、東西陣営のどちらにも与さない中立的な立場を取ってきた。冷戦終結以降も、西側陣営への抗覇権の立場を取りつつ、被抑圧民を救済するとの名目の下で地域の国々や非国家主体との連携を図ってきている。このように考えれば、現在、イランは表向き、制裁の「無効化」を目指し、核合意再建に向けたウィーン協議から離脱せず米国との間接協議を続けながら、これと同時並行で中露との政治・経済関係強化を図るバランス外交を展開しているといえる。

 しかし、実際には、イランが中露の側に傾斜する印象は強まっている。ウクライナ軍は9月13日、ロシア軍がイラン製ドローン「シャーヘド136」を使用していると発表しており、イラン・ロシア間における水面下での軍事協力の進展が見られている。大局的に見ればイランは前述の基本方針から外れていないかもしれないが、ロシア・ウクライナ戦争勃発を経て、イランがさらに一歩踏み込んだ対応を講じているようにも見える。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「イラン:ロシアとの金融・銀行、運輸、エネルギー等の分野での関係強化に向けた動き」2022年度No.48(2022年7月12日)

・「イラン:ロシアのプーチン大統領によるイラン訪問の成果とその限界」2022年度No.53(2022年7月21日)

・「イラン:ロシアへのドローン供与疑惑と核交渉への影響」2022年度No.78(2022年9月1日)

 

<中東トピックス>【会員限定】

・「イラン:SCO正式加盟承認とその影響」T21-06、2021年10月5日

 

<中東分析レポート>【会員限定】

・「イランの「ルック・イースト」政策から見る外交方針」R22-03、2022年6月8日

(研究員 青木 健太)

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