中東かわら版

№83 アルジェリア:ロシアでの軍事演習に参加

 アルジェリア人民軍(ANP)は、2022年9月1~7日にロシアの極東各地で実施された合同軍事演習「ボストーク2022」に参加した。同演習は、ウクライナ危機下で欧米諸国と対立するロシアが国際的な孤立を避け、友好国との結束を強化するためのものとされる。アルジェリアは昨年11月の北オセチア演習に続いてロシアでの軍事演習に参加し、今回は約100人の兵士を派遣し、陸海空の各種作戦での動きを確認した。

 今年11月には、アルジェリア国内で初めて二国間の軍事演習が実施される予定である。場所は、モロッコ国境近くの南西部ベシャール県ハマーギールの演習場となり、内容はテロ対策が中心になる見通しである。

 

評価

 アルジェリアとロシアの軍事関係はこれまで、アルジェリアへのロシア製武器の供与や軍関係者間の人的交流を軸としていた。アルジェリアは世界有数のロシア製武器購入国であり、ロシアの武器輸出額(2016~20年)でインドと中国に次ぐ、第3位(全体の15%)となった(出所:ストックホルム国際平和研究所)。またブーテフリカ政権下、1980年代より軍部で影響力を持っていた、元仏軍脱走組の将校らは排除され、その代わりにソ連研修組の将校らが台頭し、プーチン政権との結びつきを強めた。

 アルジェリアがロシアとの軍事演習を積極的に実施し、軍事面で関係強化を図る背景には、西サハラ問題などを理由に断交中のモロッコへの対抗意識があると考えられる。モロッコは2020年12月のイスラエルとの関係正常化を機に、イスラエルとの軍事協力を促進しており、イスラエルの対無人機システム「スカイロック・ドーム」や多層防空システム「バラクMX」、無人攻撃機「ハロップ」を相次いで購入した。さらに、トルコの無人攻撃機「バイラクタルTB2」や中国の防空システム「スカイ・ドラゴン50」も導入し、軍備拡張を進めている。

 こうした状況下、アルジェリアはモロッコ国境付近でロシアと軍事演習を実施することで、モロッコに圧力をかけるとともに、モロッコを支援するアメリカやイスラエルを牽制するのが狙いである。ただ、アルジェリアの主張によると、昨年11月と今年4月にモロッコ軍の攻撃でアルジェリア人が死傷する事態が起きていることもあり、アルジェリア・ロシア軍事演習が、地域的緊張を更に高める引き金となる恐れがある。

 

【参考情報】

<中東研究>

高橋雅英「アルジェリアの対ロシア・対フランス関係――ウクライナ危機でのエネルギー供給国の役割」『中東研究』第544号、2022年5月。

(研究員 高橋 雅英)

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