中東かわら版

№78 イラン:ロシアへのドローン供与疑惑と核交渉への影響

 2022年8月29日、イランがロシアに対し、ロシア・ウクライナ戦争に投入するためのドローンを初めて供与したと『ワシントン・ポスト』が報じた。同記事は、匿名の米政府関係者の発言を引用しつつ、8月19日にロシアの貨物航空機がイラン製ドローン2種類を搭載してイランから出発したと報じ、今次輸送は全体で数百台となるイラン製ドローン調達計画の第1弾だと伝えた。米政府及び同盟国の治安関係者によると、今回搭載されたドローンは、「シャヒード129型」、「シャヒード191型」、及び、「モハージェル6型」で、攻撃と偵察の両用可とのことである。一方で、匿名の専門家は、イラン製ドローンは技術的問題を抱えており、ロシア側は満足していないようだと発言した。

 これに対して、イラン国家最高安全保障評議会に近い『ヌール通信』(保守系)は31日、「西側の政治集団とメディアが、イランに対する政治的圧力を強めることを目的として、イランがドローンをウクライナ戦争で使用するためにロシアに売却しているとの偽造の情報を報じた。しかし、この捏造は事実上、イランがドローン製造のための最先端の学術・技術力を有することを世界の展示場に示した」と報じた。

 本件をめぐる経緯は、報道によれば以下の通りである。

 

表 イランからロシアに対するドローン供与疑惑を巡る報道とりまとめ

日付

内容

7月11日

米国のサリヴァン国家安全保障担当大統領補佐官が、イランはロシアに対し、ドローン数百機を供与する計画を有していると発言した。

7月12日

イランのキャナアーニー外務報道官は、米国のサリヴァン大統領補佐官発言に対し、イランとロシアとの関係はウクライナ戦争開始に先立つものであり、近年になって何か特別な進展があったわけではないと述べた。

7月15日

イランのアブドゥルラヒヤーン外相は、ウクライナのクレバ外相と電話会談し、イランが戦争に反対する基本原則を説明し、サリヴァン米大統領補佐官が言及したイランのロシアに対するドローン供与計画を否定した。

7月16日

『CNN』は、6月中に2度、ロシア軍関係者一行がイランのカシャーン空軍基地を訪問し、ドローンを視察したとの機密情報を報じた。

8月10日

『CNN』は、過去数週間の間、ロシア政府高官がイラン国内でドローン運用の訓練を受けたと報じた。

8月29日

『ワシントン・ポスト』は、イランがロシアに対し、ロシア・ウクライナ戦争に投入するためのドローンを初めて供与したと報じた。

(出所)公開情報を元に筆者作成。

 

評価

 イランがロシアに対し、実際にドローンを供与している可能性は完全には排除できない。確かに、キャナアーニー外務報道官は7月12日、イランとロシアとの軍事協力はロシア・ウクライナ戦争前から構築されてきたのであり、最近になって特定の出来事が起こったわけではないと述べ、やんわりとサリヴァン大統領補佐官発言を否定してはいる。その後、アブドゥルラヒヤーン外相は完全否定した。また、ドローン供与疑惑の情報の出所はすべて米政府高官であり、イラン政府側が正式に供与を認めたわけではない。しかし、イラン体制内には複数の権力が存在し、とりわけ対外政策については、外務省の他にも、革命防衛隊や国防軍需省が大きな力を有する。仮に外務省が公には否定したとしても、軍が異なる狙いを背景に水面下で物事を進めている可能性を完全には否定できない。

 実際、5月17日、タジキスタンの首都ドゥシャンベで、イラン製の軍事ドローン「アバービル2」の製造工場が完成するなど、近年、イランは軍事物資を輸出できる水準に引き上げたことを内外にアピールしてきた。これと並行して、革命防衛隊は人工衛星発射、及び、ミサイル開発も推進してきた。革命防衛隊は、長距離弾道ミサイル「ハイバル・シェカン」(射程1450キロメートル)の開発の成功を発表した(2月9月)他、3月8日には2回目となる国産軍事衛星「ヌール2」の打ち上げを成功させた。国産軍事技術を華々しく内外に示した革命防衛隊に、行政府がウィーン協議を進める中で強硬な姿勢を保つよう圧力をかける意図があった可能性はあろう。

 今後、ドローン供与疑惑が核交渉に与える影響が注目される。もし、イラン体制が核合意再建に向けた交渉を国家的な優先事項に位置づけているのであれば、ロシア・ウクライナ戦争という重大な局面で旗色を鮮明にする必要性は低い。実際、イランは、ロシアとウクライナのどちらかを支持することを控えてきた。こうした中で、イランがロシアへのドローン供与を決断したのであれば、イラン国内での「綱引き」で革命防衛隊を筆頭とする保守強硬派の声が支配的となったことが示唆される。

 もっとも、核合意はミサイル・ドローン開発、地域における不安定化活動等を対象とはしておらず、あくまでも核開発を対象としている。米国側が、今回のドローン供与疑惑と核交渉とを切り離し、妥結に向けて大胆な決断をすることができれば、今次問題は深刻な影響を及ぼさないだろう。その意味では、バイデン大統領が核合意復帰への反対勢力を説得したり、懐柔したりできるかが重要だが、イスラエルや米国内の対イラン強硬派は核合意復帰をストップせよと要求している模様であり、なお紆余曲折が予想される。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「イラン:ロシアとの金融・銀行、運輸、エネルギー等の分野での関係強化に向けた動き」2022年度No.48(2022年7月12日)

・「イラン:ロシアのプーチン大統領によるイラン訪問の成果とその限界」2022年度No.53(2022年7月21日)

(研究員 青木 健太)

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